「イルゼ・ラングナー?」
「なんだ、知り合いか?」
「いえ。ただ、戦死者登録の名簿で見た覚えがあります」

先の壁外調査で、彼女の遺体が特異な状態で発見されたらしい。ハンジさんが見たという巨人の異様な行動、イルゼの手記などを元に、新たな作戦を立案しようとハンジさんが奮闘しているとのことだった。以前から巨人の捕獲に対し熱を上げていたあの人のことだ、その辺を絡めてくるに違いない。手記という有力な資料がある以上、エルヴィン団長の考えが動く可能性も大いにあった。私室に戻って、スカーフを軽く緩める兵長を見やり、紅茶を淹れようとティーポットを手に取ったわたしを兵長が制した。

「イルゼの遺体についてエルヴィンに報告したあと、ペトラとオルオを連れて買い物に出る。帰ってきたらミーティングに入るから、部屋用意しとけ 」
「承知しました」

緩めたばかりのスカーフを巻き直して、席を立つ。それを見やりながらわたしも一礼を返した。椅子をきちんと定位置に戻した兵長がふと動きを止めるのと、わたしが顔を上げるのはほぼ一緒だった。わたしの右手、小指の外側には小さな傷当てが貼り付けられている。それを見ているようだった。

「その手はどうしたんだ」
「へ? …ああ、箒の柄から棘が出てまして。それで」

そうか、と小さく呟いて、ドアノブに手を掛ける。開ける直前、彼は少しだけ振り返った。

「ついでに新調してくる。後を頼む」





半強制的に配属された専属班、最近はまあ、悪くないかと思います。
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