リヴァイには仕事があると言ったが、別段大きい仕事があるわけではない。
次期訓練兵の募集広告を作ったり、前期のカリキュラムを見直したり次期カリキュラムを組みなおしたりと時間はかかるが、大層な労力を費やす仕事ではない。元調査兵団ということもあるのだろう、わたしは次期も立体起動演習の担当だった。
簡単な雑務を終えて帰路に着く。コーヒー豆を買ってから帰宅した。



何年か前のあの日、わたしはリヴァイに犯された。自分の貞操に執心はなかったのでそのこと自体は当時も今も大きな問題ではないが、痛かったので根に持ってはいる。
彼が潔癖症であると知ったとき、乗馬の際身体接触を執拗に避けていたことに納得した。抱かれたことに関する疑問が無いわけではなかったが、「処女で助かった」というのはおそらくその類の発言だろう。
抱く女が処女かどうかを気にするなら何らかの方法で確認を取ってからにしてほしいものだ。まあ、当時の状況や若気の至りということを踏まえたうえで「助かった」になるのだろうけど。

リヴァイとはそれからたまに話すようになった。訓練や会議で顔を合わせたときもそうだし、リヴァイが昇格して分隊長になった際には所属兵になったこともある。
彼は確かに潔癖だった。単純な汚れは勿論、他人の気配も気になるようで、部屋の換気は頻繁にしていたし会議室の備品であるミルクポットを使うことも嫌がった。リヴァイの部屋で会議を行わざるを得なかったとき、会議後に大掛かりな部屋掃除を始めて付き合わされることも度々あった。
というのも、わたしは不思議とリヴァイの近くにいても反発されなかったからだった。もしかしたら処女喪失の件で何らかの責任を感じているのかもしれないが、オブラート並に薄い可能性であるのは明白である。

リヴァイの意図はわからないが、彼は時々わたしを抱いた。特別拒む理由もなかったのでわたしも応じた。
今でこそお互いの家を行き来したり泊まったりもするが、別に恋愛感情に基づいてそういうことをしているわけではない。だからといって身体だけの関係かと聞かれるとそうでもない。この関係が健全なものかと聞かれると答えられない。若気の至りと衝動で、或いはリヴァイ本人が当時童貞で、つい勢いでわたしを抱いてしまったとしても理解出来なくはないし、潔癖であるが故に他の女が抱けないから一緒にいると告げられたとしても多分驚かない。唯一身体を許せる女がいるならそれで性欲を発散するのは合理的と言える。
わかっていることといえば、彼がわたしに対し拒否反応を起こすことはないし、彼はわたしの淹れたコーヒーを飲むということ、それとわたしがリヴァイのことを嫌えないということだった。単純に兵士としてのリヴァイには尊敬を覚えるし、普段接しているどの男も彼ほど出来た人間には思えなかったからだ。相対評価だが。
強いて言うなら、わたしを犯したあと、どこか泣いているかのようなリヴァイの横顔が未だに鮮明に脳に焼きついているからか。


時計を見やれば正午が近づいていた。昼食を作ろうとソファから立ち上がったところで鐘がなっていることに気づく。調査兵団の帰還の鐘だ。あまりにも早い帰還に嫌な予感がした。
わたしは台所に立つと、食パンにマーガリンを少し塗ってオーブンに入れ、保冷庫から卵を出してきて出来るだけ丁寧に溶いた。
溶いた卵の黄色の中に粘性の白身が見えるとリヴァイが嫌がるから、丁寧に溶くようになったのだった。






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -