かつてわたしも調査兵団の一員だった。リヴァイは所謂先輩で、班も違っていたしこれといった接点はなかったのだけど、当時から異例の戦力を誇っていたのは知っていた。
ただ、経歴の問題なのか当時のリヴァイは今よりも乱暴だったし感情的な面も目立った。立場も今ほどではなかったし、むしろエルヴィンによる特別入団というのもあってやや煙たがられていたふしすらある。彼の入団によって調査兵団はより高いレベルの活動が出来るようになったというのに、人間というのは現金な生き物だ。

あるときの壁外調査の時だったと思う。わたしも何度かの調査を経て相応の実力を身につけてきた頃だった。








「まずいな…」

奇行種から逃げているうちに班員の位置がわからなくなってしまった。
逃走中に信煙弾も落としたらしい。馬も立体起動も替えの刃もあるので絶望的とはいかないが、複数の巨人に襲われる可能性を考えれば楽観視してもいられない。
ひとまず中央に向かわなければ、そう思って馬を方向転換させた時だった。

「……!?」

悲鳴のようなものがやや遠くから聞こえる。おそらく巨人のものだ。
自分の班の位置は右翼側だった。さらに外側の隊がいるはずであり、彼らが巨人と交戦している可能性がある。再度馬を方向転換させて馬を駆る。単独で走り回るより、誰かと行動していたほうが安全に違いない。



馬を駆った先にあったのは地獄絵図だった。いや、地獄絵図の残骸か。
蒸気を噴出しながら消滅する巨人の死体が3つ、4つ…いや、10近くあるかもしれない。それだけの死体が転がってはいるが、奴等を屠ったであろう我が調査兵団の面々も無残な姿で地に伏している。
巨人の蒸気で視界が悪い。ゆっくり歩を進めていると、やや小さな林があった。林と呼ぶのもおこがましいレベルだが、立体起動を使うには十分だ。
その一番手前の木の上に、彼はいた。





「…リヴァイさん? 大丈夫ですか?」
「………馬がいねえ」

木の枝の上に座り、右膝を立てて頬杖を付いた彼は、印象通りの無愛想でそう吐き捨てた。




「豚の大群に襲われた。ただの豚ならいくら来ようが大したことねえが、奇行種が立て続けに来やがって」
「でもこの現状を見る限り、最終的にはあなた一人で殺したんでしょう。流石ですね」

疲弊しているように見えたリヴァイさんを休ませることも兼ね、地面に座って状況を確認する。リヴァイさんの班員は彼以外全滅。残っていた巨人はたった一人で処分したというのだから恐ろしい話だ。尊敬とも畏怖とも取れるであろう賞賛の言葉を素直に述べれば、ハンカチで返り血を執拗に拭っていたリヴァイさんはキッ、とこちらを睨んだ。


「仲間も救えねえで何が流石だ。笑わせんな」
「…」
「調査兵団ってのは本来チームワークで行うもんなんだろ。単独でやれたって信頼されなきゃ意味ねえだろうが」

少し驚いた。わたしのイメージではもっとこう、素行も悪ければ精神もズレているといった感じだったのだが。
仲間意識はしっかり持っているし、この発言から察するに班員との仲は芳しくなかったのかもしれない。そしてそういった人間関係の拗れが、全滅という結果を招いたと、そう聞こえた。

「…この数の巨人が中央に突っ込んでいったら、兵団の被害は甚大だったでしょうね。あなたがそれを未然に防いだとも言える」
「うるせえよ」
「事実ですがね」
「そういうのが吐き気がするって言うんだ。黙ってろ」

語調が荒くなった、と思った瞬間、彼はわたしに馬乗りになっていた。

「え、」
「てめえも殺されてえのかよ」
「あの、落ち着きましょう、少し気が動転してるんじゃないですか」
「黙れよ雌豚」

噛み付くかのように唇を奪い、強引に服を捲って手を侵入させる。身体に巻きついたワイヤーが素肌に食い込んで痛い。そんな物理的な痛みよりも、目の前のこの男に対する恐怖心のほうが上回っていた。
侵入した手は簡単に胸元に辿り着き、突起を乱暴に摘む。抵抗の意を込めてリヴァイさんの胸を強く叩いてみるが、まるで効果はない。まず体勢を立て直そうと膝を立ててみれば、その膝の間に割り込まれた。

「ん、んん…っ、」
「…っは、」
「リヴァイ、さ、やめ…っ! っあ、」

膝に割り込まれては最早負けを認めるより他にない。太腿をするりと撫でられる。明確な意思を持った指先が皮膚の薄い内側を太腿をなぞり、秘部に触れた。こちらの都合などおかまいなしに指を挿入しようとする。

「痛っ、いた…やめ、いや、嫌です、リヴァイさん、やっ…ひぁ、ああぁ…!」

こんなほぼ強姦みたいな状況で濡れるわけもなく、文字通り裂かれるような痛みを与えてくるリヴァイさんの印象をやはり改める必要があった。突然強姦とか本当にただのゴロツキじゃないか。力の差を誇示して組み敷いて。敗北感と恐怖心と、激痛に耐えかねて目頭に涙が滲んだ。リヴァイさんはそんなわたしに一言、うるせえと呟いて、無理やり指を突き入れて掻き回す。掻き回したところで痛みが募るだけだった。

「せっま」
「い、や…やめ、てくださ…」

ずるり、と抜いた彼の指には血がついていた。わたしの血だった。彼はその指をわたしのコートで拭うと、既に主張し始めていたものを取り出して膣口に宛がう。次の瞬間、鈍い衝撃がわたしの身体を貫く。


「いっ、あ、あぁあぁぁぁあ…! ん、ひぁ…」
「っ、てめ、まさか」
「うぅ、ぁ、やだ、抜い、て、くださぁ…っ、! 痛いっ、てば…や、んん」

リヴァイさんは私の右脚を上に上げた。激痛に喘ぐわたしの唇に再度噛み付き、腰を振る。左手はわたしの首元へ。重力による圧迫。死ぬことはないが当然のように苦しく、涙は溢れて重力に負けていく。
やがてリヴァイさんの動きが激しくなった。果てる直前に抜いて地面へと出したらしいのを、わたしはぼんやりと空を眺めながら察した。


身体がだるくて、且つ股の間も痛くて、わたしは一時のあいだ地面に転がっていた。早く陣形に戻らないとと思うのに気が乗らない。そんなわたしの隣にリヴァイさんは腰を下ろした。

「………股が痛くて馬に乗れそうにないです」
「俺が乗る」
「わたしは」
「は? 置いてく」

なんなんだこいつは。そろそろ怒っていいんじゃないか。重い上半身を起こして不躾な男の顔を見る。
右手で頬杖をついていてよく表情が伺えないその横顔は、なんだか凄く寂しげに見えた。


「お前、名前は」
「…ノエル・ベッシュハルト」
「ノエル」
「なんでしょう」
「お前が処女で助かった」
「は?」



結局、リヴァイさんが馬の手綱を取って中央列へと帰還した。馬に乗る前に俺に触るなと念を押され、散々人の身体で好き放題しておいて何を、と文句のひとつも言いたくなったが話題にしたくなくてやめた。
彼が潔癖症だと知ったのは壁の中に戻ってからだった。





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