「…何してんだてめえは」
「いや、ちょっと諸事情がありまして」

午後の訓練のときにどうやら腰をおかしくしたらしい。放っておけば治るだろうと高を括っていたが、日が沈んでも痛みは治まらない。治まるどころか、連鎖反応なのか右脚までぎしぎしと痛み出す始末だった。
痛みに耐え切れず、稼動範囲がだんだん狭くなってくる。どうにか痛みが軽減出来ないかとベッドの上で悲鳴を上げながら体勢を試行錯誤していたところに、リヴァイが突然押しかけてきたのが運の尽きだった。リヴァイは眉を潜めてわたしを見ると、呆れたように溜息をついた。事情ってなんだ、そう問う彼にわたしは経緯を話した。


「で、腰がいてえと」
「はい」
「脚もいてえと」
「はい」
「動けないのか」
「動けなくはないけど、あまり動きたくないわ。悪いけど、今日は何もしてあげられないから」
「…そうか」

ベッドの上で仰向けになってじっとしているわたしと、ソファに座るリヴァイの距離はやや離れている。リヴァイが淹れたコーヒーの香りが部屋を侵食して、わたしの鼻腔をくすぐる。そのまま目を閉じてうつらうつらしていると、明かりがやや陰る気配がした。目を開ければベッドサイドに腰かけるリヴァイがこちらをじっと見ている。いくら見られても痛みは和らがないし、何か期待されても困る。動けねえなら口でしろとか、そういうことを言う人じゃないのは知っているけど。

「…ほんとに申し訳ないんだけど、」
「お前、明日仕事は」
「ある」
「それじゃ行けねえだろうが」
「そうだね…朝までになんとかなればいいんだけど…」

明日の具合によっては仕事に行っても話にならない可能性がある。立体起動の授業は明日も勿論あるため、自分が使いものにならない事態は避けたかった。

「なあ、知ってるか」
「なに?」
「世の中には、ショック療法というものがあるらしい」
「……はい?」

ぎしり、とベッドのスプリングが軋んだ。かかる体重は人間2人分。一般的な女より重い部屋の主であるわたしと、悲しきかな人類最強。いつ壊れてもおかしくないシングルベッドに、今日も彼が乗り上げた。乗り上げたならあとは一瞬で、瞬きしている間に彼は私を組み敷いていた。痛みを訴える腰と右脚には体重をかけてこないのが唯一の良心か。

「ちょっ…と待ってくれないかなリヴァイ」
「ショック療法だ」
「それ本気で言ってる?」
「俺がそんな冗談言うと思うか?」
「思ってないけどほんと、今回はちょっと洒落にならな…っさわん、ないでって…!」

ブラウスに侵入してくる、ごつごつと骨張った手を退けようと身体を捩れば腰に嫌な痛みが走る。思わず息を詰めれば、感じていると勘違いしたのかリヴァイがニタリと笑った。
明日の仕事に行けるかどうか、もうわからない。








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