「おい、お前この後暇か」
「は? 暇ではないですが…あいてますよ」
「なら付き合え」

そういうリヴァイさんにわたしは露骨に嫌そうな顔をして見せた。しかし彼に対しては拒否権など存在しない。
リヴァイさんのいう「付き合え」は、要するに夜の事である。以前彼に強姦されてからというものの、こんな関係が続いている。拒否権はないと言ったが、拒否する気がないのも事実ではあった。将来有望で、どちらかというと顔も整っている彼の、恐らく唯一の女であったからだ。人並みの人間性はある。この状況に軽い優越感を覚えるのも無理はなかった。

会議が終わり、今日の業務は終了となった。近日中に班の再編成があるとのことだった。人の入れ替わりが激しい調査兵団内での異動は然程珍しいことでもなく、ホテルへと向かう道中でもその話題は出なかった。そもそも会話も存在しなかったが。

リヴァイさんは自他ともに認める潔癖性だ。わたしと寝たあともすぐシャワーを浴びるし、同じベッドでは寝ない。勿論ソファで寝るはめになるのはわたしだ。セフレと割り切っているのか、夕飯を共にしたこともないし突っ込んだ会話は多くない。リヴァイさんは口も悪いし人相も悪いし、人遣いも荒い。それは行為の最中であっても同じで、わたしが気持ちいいかなんてことは二の次だった。

「あ、明日早いので今日は少し早く帰りたいです」
「構わねえが…明日は休みだろうが」
「休日だから用事があるんですよ」
「へえ、意外だな」

いいから早く湯浴みしてこいよと睨むリヴァイさんの視線から逃れるように、ホテルの綺麗なシャワー室に滑り込む。

「あれ…シャンプーないな」

シャンプーのボトルに手を伸ばそうとするが、無い。備品の欠品とはまた珍しいと思いつつ、棚を探そうとシャワー室のドアを開けた。

「おい」
「うわっ!?」

開けたそばから声をかけられた。勿論声の主はリヴァイさんである。彼は相変わらず眉間に皺を寄せたままずんずんと近寄ってきた。辛うじて腕で身体を隠した。

「な…にしてんですか、部屋にいてくださいよ」
「明日用事があると言ったな?」
「そうですが」
「汚ねえ姿で行ったら相手に悪いだろうがよ。俺が洗ってやる」
「は? いらないです」
「ごちゃごちゃ抜かすんじゃねえよ」

リヴァイさんはわたしの腕を掴んでシャワー室へ連れ込むとコックを緩く捻った。シャンプーのボトルがないことに気づいたのか舌打ちして、ボディソープのボトルを手に取った。何回かプッシュして、その液体をわたしの頭にかける。

「ちょっと、それ! ボディソープ!」
「洗えりゃなんでもいいんだよ」
「髪が傷むからやめてください!」
「ほお、その髪は誰かに見せるために手入れしてたのか? あ?」
「いっ、」

髪が引っ張られて頭が吊られる。頭皮が皮膚をあげている。なるべくリヴァイさんの気に障らないように表情を作った。その気遣いが伝わったのだろう、リヴァイさんは腹立たしげに舌打ちしてわたしを壁に押し付けた。

「お前いつからそうだった?」
「…っ、なにが、ですか」
「気に入らねえな」
「ちょっと、わ、」

もう一度コックを捻ると降ってくるお湯の量が増えて、わたしとリヴァイさんを濡らした。シャンプーが流れてきて思わず目を瞑る。それを見計らってかどうか、噛み付くようにしてリヴァイさんがキスをした。伸びてくる指先はシャンプーをつけたまま秘部へと向かう。濡れてるはずのないそこを無理矢理拓かれて、痛みに呻いた。

「ん、やだ、リヴァイ、さんってば!」
「きたねえんだよ」
「いっ、痛いって…!」

上を向いて髪をかきあげた。シャワーが泡を流してようやく視界が開ける。リヴァイさんの胸板に手をついてみても今更だった。かき回される痛みに耐えるように濡れた彼のブラウスにしがみつく。

「いいご身分じゃねえか」
「さっきから、何おこっ…ん、なに、おこって、るの…」
「怒ってねえよ」

シャンプーが微かに泡立って、秘部をかき回す指が滑らかになる。もう痛みにも慣れてきて、あとはいつも通りされるがまま。

「ひっ、ん、やあ、リヴァイ、さん…!」
「っくそ、」
「あっ、ん、んぁ…っ」

リヴァイさんにしがみついたらキスされる。さっきと違うのはそのくちびるがやたら優しいこと。回された左腕がわたしを強く抱きしめる。と思ったらその左腕が急に爪を立ててきた。皮膚に食い込んで破けるんじゃないかと思うくらいに。

「んっ、ふ、んん、っは、いた、い…! やめてくださ…っい!?」

爪先はそのままにギリギリとわたしの肩を苛んでいたリヴァイさんがわたしの喉元に噛み付いた。激痛とともに、犬歯が刺さる感触がする。食い破られる気がして思わず下唇を噛んだ。リヴァイさんのがふとももに当たる感覚がする。

「…っは、胸糞、わりい」

リヴァイさんはわたしの首元から離れ、肩口に顔を埋めながら履いていたものを脱いだ。脚を開こうとしたところを抱えられる。両脚抱えられて不安定な態勢のまま壁に押し付けられて息が詰まった。リヴァイさんのものが秘部に触れるかと思った刹那、それはわたしのふとももの間に滑り込んでいった。

「っ、リヴァイ、さん」
「いれねーよ。そんなきたねえとこにいれられるか」
「はあ…? 、んっ」

シャンプーとお湯とわたしの愛液でぬるぬるしているそこを、リヴァイさんのものが往復していく。肝心の刺激が与えられないまま、求めることも出来ずにわたしは喘ぐしかなかった。

「っ、くそ、」
「んんっ、や、ぁだ、ひあ…っん…! や、リヴァイ、さ、」

腰を振る速度が速くなって、リヴァイさんが果てる。疼いたそこに目もくれず、リヴァイさんは抱えていた脚を下ろした。それと同時に、立っていられないわたしもずるずると腰を下ろした。脚が痙攣する。
リヴァイさんはわたしと同じ位置まで屈んで、またわたしの首元に噛み付いた。シャワーが容赦無くわたしたちを濡らす。視界は悪いしわたしはイってないしで意識が朦朧とするなか、リヴァイさんの濡れて張り付いた前髪の隙間から、鋭い眼光を見た気がした。



「あの野郎次会ったら文句言ってやる…!」

目が覚めると夜中とは言わずとも随分遅い時間で、しかも脱衣所に転がされていた。ベッドに入って寝息を立てるリヴァイさんになど目もくれず帰宅してシャワーを浴び直して寝て、案の定寝坊だ。ギリギリという程でもないが、急がないと間に合わない。久しぶりに同期と集まるというのに、遅刻は避けたかった。心なしか寒気がする。あんなところに全裸で転がされていたらそれは具合にも差し障るだろう。さすがにない。あれはない。タオルくらいかけろ。

「…なっ、」

ネックレスをつけようと鏡を覗き込んだわたしは思わず驚愕の声をあげた。見慣れないものが無数に首元にあった。キスマークだ。

「なに、これ…」

心当たりなんてリヴァイさんくらいしかいない。汚いとか言っていたくせに抱くし何を考えているのか意味がわからない。というか突然汚いとか言うのも意味がわからないし何が汚いのかという話だし怒ってた理由もわからない。どちらにせよ今はそれどころではないので放っておくことにした。しかしキスマークは放置出来ないので、わたしは大きめのストールを巻いて家を出る。思いのほか外は風が強くて、巻いたストールをぎゅうと押さえつけて小走りで集合場所まで向かった。

「キスマークとか、つけたことなかったくせに…」

今まで何度も抱いたくせに。




あれが彼なりの嫉妬だったと気づくのは、もっとずっと先の話。





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