『だめだ、まだ日が沈まない!』
「もう少しだ、耐えきれよ! …ライチュウ、10万ボルト!」


ブラッキーが苦し紛れに毒々を撒き散らす。それを避けながら、デンジとライチュウはレントラーの動作に意識を向けた。


「レントラー、ワイルドボルト!」


雷撃を纏って突っ込んでくるレントラーをかわす。綺麗に咲いていた野花が、チリチリと音を立てた。


「ボルテッカー、撃ちにくいでしょう? レントラー、威嚇だもんね」
「そうだな、レントラーの厄介さに惚れ直してるとこだぜ」


皮肉を言うリオを無視して、デンジも周囲を見渡す。ブラッキーが撒いた毒で、沸いてきたポケモンたちは徐々に弱り始めていた。
相変わらず怖い顔をしたリオは、奇妙に口元を歪めて笑う。その笑った顔にどことなく、淋しさとか苦しさとか、そんな感情が乗っていることに気づいて胸が騒ぐ。


好きだと言った。リオが。この俺に。
その事実と、今この状況が噛み合わない。
リオが俺のことを好きなのは知っていた。その好意が今までのものと同種なのか、それとも違うのか、正直に言うと俺にはわからなかった。会わなかった時期があるから。例の同行者と、何かあった可能性だって、それを引きずってる可能性だってゼロではなかった。確認するのも野暮かと、今更お互いの恋愛事情に口を挟むのもなんだか億劫で。それでも、リオはきっと俺のそばにいるだろうと、なんの根拠もない確信があった。


でも、それも驕りだったというんだろう。
俺はこのまま、二人でずっと一緒にいるものだと思ってた。いられるのだと思ってた。リオも多分そう思ってた、けど。
リオは俺ほど楽観的ではなかった、ということだ。そのくらい、俺だってわかっててもよかったはずなのにね。


後悔したって仕方ないんだ、俺はリオを連れて帰る。好きだよ、だから迎えに来たんだ。





もう長いこと激しい攻防戦が続いていた。あとはどちらかが限界を迎えるだけの消耗戦。
太陽が沈み、月が昇る。登った月は細い三日月。ブラッキーの力を最大限発揮するにはやや分が悪い。
さらに、月が昇り切るということは、イコール、夜の闇が深くなるということ。次々に沸くゴーストタイプは水を得た魚のようで、やはり分が悪かった。


(これ以上長引くとブラッキーがやばいな…時間がねえ)


『おい、デンジ…見ろ、アレ』


ブラッキーに声をかけられ、その視線の先を追えば、ゆらり、怪しげに光る何かがある。
脳は正常にボトムアップ処理を行い…光る何かはやがて巨大な顔になった。顔というよりは、模様といったほうが正解か。



「ははっ、ヨノワール、ね。…あんまり会いたくなかったわ、野生でいんのかよこんなの? フィールドワーク不足でシロナさんに怒られるって。勘弁してくれよ」


思わずぼやく。こんな野生のポケモンがいるなんて知らなかった。近隣地域のフィールドワークはジムリーダーの務めである。そして俺はサボっていた。そして一般市民であるリオに被害が出ている。…リオだから良かったものの、ほんとうにただの一般市民だったら監督不行届で責任問題になってたところだ。ブラッキーが鼻で嘲笑するのが聞こえたので、耐久ポケって意味じゃヨノワールのほうが優秀だと嫌味を言ってやった。


でも、これではっきりした。
黒幕はヨノワール、大方催眠術で操ってるというところだろう。人間のリオはともかく、レントラーがここまで長く催眠にかかったままなのだから、それなりに強力なのだろう。握る拳に力が入る。


「まあ、これで明確な攻撃対象が出来たわけだ。喜べよ、ブラッキー」


マスターを殴らなくて済むぜ、そう言った自分の声音も随分気抜けしていて、先ほどまでとの落差に自分を笑った。




「余所見、してていいのかしら?」
「ライ……ッ!」
「!?」


ライチュウが吹き飛ばされる。流石に体力も尽きかけたのか、足元の覚束ないライチュウをボールへと戻した。
こちらを見据え、睨みつけてくるレントラーに向き合って、目を合わせた。


「…余所見してたのはお前の方だぜ、リオ」
「…どういうことよ?」
「今レントラーはギガインパクトを撃ってきた。普段だったら撃たない技だ。お前も、レントラーが撃てることを咄嗟に思い出せないような、そんな技だ」


今のギガインパクトはリオの意思じゃない、レントラーの意思だ。推測じゃない、焦点が合わない目で、レントラーが教えてくれたから。


「お前も無茶するよな、ごめんな。ありがとう」


反動で動けないならこっちのものなのだ。なんてったって俺はこのレントラーの主人なのだから。
腰のベルトからボールを外し、レントラーに突きつける。リオの表情が強張ったのがわかった。



「戻れ、レントラー」






戦場に立つのは誰か






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