「レントラーと一緒の女の子? ああ、見たよ」



グランドレイクでゆっくりしている人たちに迷惑そうな顔をされながら聞き込みを続けても何の収穫も無かった俺にとって、この一言はなかなかに朗報だった。
サイキッカーの男に軽く手を振り、示されたあたりで道を探す。
なんでもこのあたりには目立たない脇道があるらしく、男も毎日ここで修行をしなければ気づかなかったと言っていた。


「…これか」
『僕はマスターがこんな場所を知ってることのほうが驚きだけどね』


例の脇道に入る。かなり幅のある道を走り抜ける。じきに広い場所へと出て、俺もブラッキーも絶句した。
立ちはだかっていたのは、崖、だった。




小さいころから機械ばかりいじって、街の中にいた。
ジムリーダーになったならせめて街周囲のフィールドワークくらいきちんとしておけばよかったのに、それすら疎かにしていたことを今更になって後悔する。
ロッククライムを使えるポケモンなんて、俺は持ってない。












日が傾いて来た。
下がってきた気温に身震いして、レントラーにそっと寄り添った。軽装のまま家を出てしまった、昼間の自分を呪う。せめて防寒具のひとつさえあれば。いや、ピジョットさえいてくれればそれだけでも暖かかっただろうに。


「どっか休めそうなところ探そうか。…デンジがここまで来るとも思えないし、一回下に降りてみてもいいかもしれないよ」


下、というのは自分の後方にある崖の下のことを指していたのだが、眼下にある湖をぼうっと眺めているうちに小さな洞穴があることに気づく。



「レントラー、あそこに洞穴みたいなのがあるよ。行ってみる?」


指を指して示せば、レントラーの視線もそちらに動く。
どちらからともなく立ち上がって、湖側の崖に降りるべく場所を探し始めた。






おくりのいずみ。死んだポケモンを、おくる場所。
夕暮れは、もうすぐそこまで迫っていた。






招かれざる舞踏会






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