ここはナギサジムジムリーダーの部屋。部屋の主はというと現在挑戦者とバトル中。
部屋には人間一人と、ポケモンが一匹。



「ねー、レントラー、」



大人しく撫でられている彼の名はレントラー。
ブラッキーはボールの中で昼寝。無理もない。
先日のヒト化騒動の件を博士に言ってみたら、うっかり研究室に連れて行かれてしまったのだ。
結局一週間近く帰ってこられなかったのだ、何をされたのか知らないが(まあ博士のことだから無茶なことはしてないだろう)彼はすっかりお疲れのようで、起きる気配は微塵も無かった。






「よく考えたら、あなたとはブラッキー以上に長い付き合いなのよね」


背を撫でるリオの手に気持ち良さそうに目を瞑り、身体をその手にすり寄せる。
プライドの高いレントラーが、デンジとリオの前でしかしない表情。




「…その顔、」


不意に撫でる手を止めて、リオが淡々とした口調で呟く。その呟きを拾って、レントラーが顔を上げた。


「いつか他の女の人にも、見せるんだろうね」



鼻を慣らしたレントラーの表情は、肯定しているようにも否定しているようにも見えた。
それでも主人と長い時間を過ごしたこの女が何を思って、何を隠しているのかは彼も察しをつけていて、彼は眼光ポケモンの名に恥じないその瞳を、リオに向けた。












「リオー、ちょっとレントラーいい…か…?」


部屋に入れば、そこには誰もいなかった。ブラッキーのボールがひとつ、テーブルの上に転がっているだけ。


「んだよ、出かける用事があるなら書置きでもしてけよ…」


先の挑戦者がレントラーを見たいと言っていたから連れていこうとしたのだが、連れて行かれてしまっては到底無理な話となる。
謝りに行こうとして、デンジは部屋を後にした。


「あー、悪いな。なんかどっか行ってるみたいなんだ」
「えー! せっかくデンジさんのレントラー見られると思ったのに…」
「また来いよ、お前なら歓迎だからさ」


そう言ってやれば、目の前の少女(前に俺からバッジを持っていった女の子と同じくらいだろうか)は小さく頷いた。




しばらく話し込んだ頃だった。
デンジの後ろのドア、関係者入り口が大きな音を立てて開く。驚いて振り返ればそこにはリオのブラッキーが立っていた、

「わっ…ブラッキーだ! デンジさんブラッキーなんて持ってたんですかあ!?」


少女が目を輝かせて彼に近づこうとするが、それを静かに制する。彼はそんな少女など見えていないかのように、デンジの前まで早足で近づき、ぎらりと赤い目を向ける。

「デンジ、さ…?」


少女の声に答える余裕はまるでない。
全身逆立った彼の細やかな体毛が、事の重大さを示している。デンジはただ嫌な予感だけを感じ取りながら、ブラッキーの動きを待った。


「リオに…何かあったのか?」
『…いないんだよ、マスター』
「!?」


突然頭の中に、あの男―――先日ブラッキーがヒト化したときの姿―――の声がした。
そのことにも勿論驚いたが、その声が示した言葉の方がよっぽど衝撃的だった。


「ごめん、また今度来てくれるかな。急用が出来てさ」




素早く身を翻し、部屋に戻るブラッキーを追いかけて自分も走る。
半開きになっているドアを開けて体を滑り込ませれば、座ることもせずにじっと窓の外を睨むブラッキーがいた。



「お前、今」
『僕の特性がシンクロだって、お前だって知らないわけじゃないだろ』
「今俺とお前が会話してる根本的な理由にはならないけどな」
『こないだ僕人間になっただろ、その影響なんじゃないかなあ。博士にいろいろ薬とかも盛られたしね、』


苦々しくそう吐き捨てるブラッキーに少し哀れみの念も抱いたが、正直今はそれどころではない。
そのことに気づいたのか彼もデンジに向き直り、口を開いた。


『さっきも言ったけど、マスターがいないんだ』
「ただ出かけたってことは」
『僕を置いて黙って出かけていくなんてありえない。書置きがあるはずなんだ。お前だって知ってるだろ』
「…」
『それに、レントラーだっていないんだ』



こいつがここまで言うんだ、本当にリオはいなくなってしまったに違いない。

日常が突然、軋んだ気がした。









失態と喪失と

(なんだ、この感じ)(不安だなんて柄じゃねーのに、)





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