「じゃあマスター、僕マスターと一緒に海行きたいなあ」
「いつも行ってるだろーが」


そう毒づけば、キッと赤い目を光らせて睨まれた。



「いいでしょ? せっかく人間の姿になれたんだしさ、行ってみたいんだ」
「うーん…うん…いいよ」

困ったように笑うリオを見て溜息をつく。甘い。




「ああ、でも」

人差し指を立ててリオが口を開く。

「デンジも一緒でいい?」
「「え」」


むくれた顔をするブラッキー(まだ認めたくはない)と、まさかの同行に驚く俺。やはりマスターは逆らえないようで、渋々ブラッキーは頷いた。




「なんで俺も一緒なんだ」

来る道はリオにべったりくっついてた癖に、いざ浜辺に来たらレントラーと一緒に遠くの方まで行ってしまった。まあいつも通りの光景ではある。夕方の海はさすがに冷え込む。
体を揺すりながら疑問に思っていたことを言えば、リオも貧乏ゆすりをしながら答えた。

「あの子がブラッキーなのは信じていいと思うのよ、だからこそね」
「1人じゃ面倒見切れないってか?」
「まあそういうこと…何かあっても困るじゃない?」


あたりをキョロキョロとしながら、やはり寒いのか体を寄せてくる。



「だってさ、ずっとデンジにべったりだった私が」
「…おう」
「急に見知らぬ男の子と歩いてたら変に思われるじゃない」
「…う、ん?」

まあ言いたいことはわかる。世間体ってやつだろ、フミコさんなんか話し好きだから変に話が膨らんでいっても困るし。ただべったりだけはちょっとよくわからない。べったり?
ただ、俺の知らない男と2人で歩いているリオを想像して、少し息が詰まった。




「いいんじゃねーの、世間体なんて」
「なんでよ」

横目で顔を見れば、案の定不機嫌そうなリオ。

「だって、俺たちがそう思ってんなら、いいじゃん別に」
「…そう思ってるって、なに」
「何って、」


遠方に小さくレントラーと黒い服の男が見える。もし、ブラッキーがあのまま人型だったらどうする?人とポケモンっていう種族の枠が、この2人の間から消えちまったら、どうなるんだ?
変な想像をして、思わず眉間に皺が寄る。


「リオは俺のリオだろ!」

突然横を向いて大声を出したら、そりゃ普通は驚く。例に漏れずリオも驚いて、目を丸くした。

「え…それ、どういう、」


そこで初めて自分がなにか恥ずかしいことを言ったことに気がついた。ちょっと待ってくれ今のって告白?告白に分類されんの?ちょっと待ってそんな気は全然無かった。いやそういう意味の気が無いじゃなくて!今告白したかったわけじゃなくて!




「…ふふ、何百面相してんの、デンジ」

くすくすと笑っているリオを見て、俺は我に返る。
そのままリオはいつものふざけあいみたいに俺の横腹に抱きついて、そうだよね、と呟いた。

「ねえデンジ」
「なんだ」
「これからも一緒にいてくれる?」

横腹あたりに顔をうずめているせいでリオの表情はわからないが、多分、いつもみたいに笑っているんだろう。

「ああ、これからも一緒だ」





もしこれが恋人同士だったりしたら、口付けのひとつやふたつ、落としてみせるのだろうか。
もしこれが俺じゃなくて、あそこにいるブラッキーだったら、そうしたのだろうか。


そんな「もし」を考えて、心臓がぎゅうと収縮したなんて、まだ俺には言えないけど。





騎士が仕事をしなかった日
(お前が笑ってなかったことなんて、俺は知らない)





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