「さーて」
昨日も思ったが、この山はデカい。来る者を拒むような、そんな威圧感があった。何しろこの山に入れるのはジムバッヂを16個集めたトレーナーのみ。その実力に見合うだけの危険があるのは間違いない。
「出てこい、エーフィ」
足元へ放ったモンスターボールから、一匹のモンスターが飛びだす。
「どこまで行けるか、やってみよーよ」
フィ、と鳴いて、エーフィは主の足に擦り寄った。
「エーフィ! サイコキネシス!」
七色の光が、敵対するハガネールに直撃…するかと思われた。光はハガネールの尾によりかく乱され、勢いを失って霧散する。
「チッ…だろうと思った! エーフィ! ねんりきで動きを封じて!」
エーフィの瞳が妖しく光り、ハガネールの動きを拘束する。
「そのまま壁に…そう、そのまま――叩きつけろ!!」
鋭い声とほぼ同時に、ハガネールの巨体と岩壁がぶつかる大きな音がした。叩きつけられたハガネールは力をなくし、その場でうずくまる。
「よしよし、よくやった」
走りよるエーフィの頭を撫でて、ハガネールを見やる。相当でかい。あんなのがもし自分に攻撃してきたら…考えると寒気がする。そのときだった。
「…? 何の音?」
地鳴り。地響き。段々と大きくなるその音に危険を感じたユーリは、ボールを素早く構えた。
「エーフィ、もど…」
言いかけたときだった。大きな音とともに、砕ける岩壁が、裂ける地面が、ユーリを飲み込んだ。
「いたたた…ありがと、エーフィ」
リフレクターを張られた周囲を見渡して、ボールに戻す前に事が起きたのはラッキーだったと思った。それと同時に、自分がもっと周囲に注意していればこんなことにならなかったのかもしれないとも思う。周囲は酷い有様だった。自分達がいた2階は完全に崩れ、ただの瓦礫となって1階と同化してしまっている。天井が高い。原因はおそらく自分達の戦い方にあったのだろう。先ほど倒したハガネールは壁に叩きつけた。サイズが大きいとはいえ、1匹くらいならこのシロガネ山はびくともしないはずだったが、実はああいう倒し方をしたのはあれ1匹だけではない。少なくともイワークだけで5匹、ドンファンで7匹、ハガネールで4匹は同じようなことをしている。なるほど山も崩れるわけだ、とユーリは自分のアホさ加減を痛感する。
「ごめんね、ありがとう。とりあえず休んでて、僕大丈夫だから」
心配そうな顔をするエーフィをボールに戻して、瓦礫の山から這い出す。周りを見ても正直方角すらわからない。近くをゴマゾウが走っていく。申し訳ない。
「うーん…3階遠いな…」
幸い運動神経にはそこそこ自信がある。岩と岩を跳んでよじ登っていけば、階段(があった)ところまで辿り付ける…かもしれない。
「よっし」
まずはあそこの岩からだ。