「えー、どうしたのグリーン、めっずらしー」
「やかましい。年配者の親切は素直に受け取れよ」
すっかり元気になった自分のポケモンと綺麗に整えられた荷物を見て、ユーリは驚いた。
「いやーなんか大人びたと思ってたけど…どうしたのホント。なんかあったの」
「大人びたとかお前に言われたくねーよ」
見た目や言動こそ変わらないものの(見た目は多少変わったか)、精神的にも成長をとげたであろう親友を見やりながら、グリーンは皮肉っぽく言った。
「…気をつけて行ってこいよ」
それでも心配なものは心配であって。
「んな辛気くさい顔すんなってーの! 帰ってくるよ、多分すぐにね」
荷物のそばでかがんでいたグリーンの髪をくしゃくしゃとかき回す。グリーンはたまらず立ち上がった。
「何しやがんだこの!」
やられたのと同じようにユーリの髪をぐしゃぐしゃにしたあと、ぽんぽんと優しく叩いて言った。
「何かあったら連絡すること。いいな?」
「…わかってるよ! グリーンこそ、僕がいないからって淋しくて泣いたりしないでよね!」
「今更それは無い」
「グリーンさあ、青いボスゴドラって知ってる?」
いざ出発、セキエイリーグの詰所まで送って行くというグリーンと並んで歩いていたときだった。いやに真面目な顔をして聞いてくるユーリに、彼は首を傾げた。
「青い…? 色違いの珍しいボスゴドラのことか?」
「あー…、まあ確かにそうなんだけど」
わりと物事はズバズバ喋るユーリがこうもぐずぐずと喋るのは珍しいことだった。痺れを切らしたグリーンが話を促す。
「なんだよ? はっきり言わないとわかんねー…」
「ひ、人なんだよ、それ!」
慌てて口にした言葉は、グリーンの頭を混乱させるには十分だったようで。
「いたっ」
「何を意味のわかんないこと言ってんだよ」
叩かれた頭をさすりながら、やはりユーリは真面目な、それでいて安心したような顔をしていた。
「ここをまっすぐ行けば28番道路に出る。あとは…」
「あれ? グリーンじゃないか」
あとは大丈夫だよな、続くはずだった言葉は、突然背後から聞こえた声によって中断された。聞き慣れた声に振り向けば、そこには長身の女――ユズキが立っていた。
「珍しいな、グリーンがここまで来るなんて。ジムはどうした?」
「まだ開けてねーよ。珍しいのはお前もだろ、こんな朝っぱらから。外回りでもするのか?」
今からチャンピオンロードの調査でな、少しウロウロしてたんだ、そこまで言って、フウマはユーリへ視線を向けた。
「こっちのお嬢さんは?」
「ああ、こいつは」
話題が急に自分に飛んだことに気づいて、ポカンと2人を見ていたユーリは我に返った。
「ユーリと言います、えっと…」
「##NAME##。このセキエイリーグの事務員やってるんだ」
リーグ関係者。なるほどグリーンと仲がいいわけだ。納得したようにユーリは頷く。
「今からシロガネ行くっていうから、送ってたとこ。そこにお前が来たんだよ」
ユズキはじっとユーリを見つめてから口を開いた。
「…もしかして、たまに話してる女の子ってこの子のことか? へえ…君がユーリちゃんか」
まじまじと見つめられて、さすがのユーリも落ち着かない。一体何の話が出てるんだ。悪口か悪口なのか。多分当たってる。
「よし!」
何か閃いたかのように急にユズキは声をあげた。
「ユーリちゃん、よかったら今度私とバトルしないか? 前々から戦ってみたいと思ってたんだ」
「え、ええ。僕でよければいつでも」
何かあったら連絡してくれ、とユズキからのギア番を受け取り、今度こそユーリは詰所を後にした。グリーンに一瞥をくれるのも忘れなかった。
「あの子が、ユーリちゃんね…なかなかタフそうな子じゃないか」
「余計なこと吹き込むなよ」
ユーリの後姿を見送りながら、可笑しそうにユズキが口を開く。
「気にかけてることは言いたくないんだろ? わかってるよ、そこまでデリカシーのない事はしないさ」
「ならいいんだけど…なあ、ユズキ」
せっかくだしコーヒーくらい淹れてやるよ、と言ったユズキの誘いに乗ったグリーンは、事務室に向かう途中で声をひそめた。
「青いボスゴドラって、なんのことだかわかるか」