ここはジョウト地方、シロガネ山。全国でもトップ3にはあがるくらい高く険しいこの山のふもとに、1人の女がいた。

「さすがにシンオウからは遠かったか…ありがと、ボーマンダ」

ひらりと飛び降りる自分の主に、一声鳴いてみせる。タフな彼でもシンオウからの直接コースの旅は長すぎたのだろう、疲れた様子を隠してはいるが、苦笑した主によってボールに戻された。

「今日はあんまり無理させられないかな」

昨日夜遅く発ったせいで、まだ日は高い。自分はまったく疲れていない。

「グリーンのとこにでも顔だしてみっかー…」

少し伸びをして、彼女は歩き出した。



「やっほーグリーン、ひっさしぶりー」

ウインディを引き連れて目の前に現れた女に、トキワのジムリーダー、グリーンは目を疑った。

「な、ユーリ…!? 帰ってきてたのかよ!? 連絡くらいしろよ!」

早口でまくし立てたグリーンをケラケラと笑いながら、女―ユーリは軽く謝った。

「ごめんごめん! 今着いたんだよ」
「ったく、しばらく連絡ねーと思ったらこれだぜ! …暇なんだろ、茶くらい出すぜ」
「あっれぇ、気が利くようになったじゃん、グリーンのくせに」
「うるせぇ」



「…で? 一通り地方は間回ってきたってわけか」
「うん。随分時間かかったけど」

ユーリが自分を破ったのは3年ほど前だった。あのとき譲ったガーディは今や立派なウインディとなり、今は自分のウインディと元気に外を駆け回っている。

「調子はどうだよ?」
「別にどうもしないって。ぜーんぜんだよ」

ただしうちの子は強くなったけどね!そういうユーリを見て、グリーンは小さく溜息をついた。

「そんでアレなんだろ、わざわざカントーまで来たってことは」
「ああ、行こうと思って。シロガネ山」

ユーリがこのカントー最後のポケモンジム、トキワジムに来る前から付き合いがあったのだから、ユーリとはもう長い付き合いになる。ユーリがカントーを出てホウエンに行ったときも連絡はたまにとっていたし、シンオウに行ったというのも聞いていた。3年前ユーリが自分を破ってジョウトとカントーの16個のバッヂが揃ったとき、ユーリはシロガネ山には行かないと言い切った。理由は簡単で、ユーリ本人もわかっていたようだった。トレーナーが、トレーナーとしてのスキルを身につけられていなかったからだった。技と力でゴリ押して進んできた、と言っても過言ではない。そのくらい、ユーリは状況判断の能力に欠けていた。指示を間違うなどのプレイングミスも目立っていた。そんな状況でシロガネに登るなんて自殺行為でしょ、とあのときユーリは言い切った。それがこうして自信ありげに行くと公言しているのだから、時の流れとは凄まじいものだ。全然と言いつつ、何かしらは学んできたんだろうと思い、嬉しい反面どこか淋しい気がしないでもない。

「今日は今からポケセン行って、明日から行くんだ!」

ホントは今日から行こうと思ったんだけど、そう言ってテーブルにつっぷする。欠伸をかみ殺したような声がした。

「仮眠用ベッド貸してやるから、少し寝てろよ」
「ん…ここでいい…」

間もなくスースーと寝息を立て始めたユーリに、グリーンは毛布をかけてやった。








『今回の連絡も、ピカチュウだけだった』
「…そうか」

ジムリーダー用の控え室で、グリーンはパソコンの画面とにらみ合っていた。連絡元はセキエイリーグ詰所。知人にある頼みごとをしていたグリーンは、その報告を聞いているところだった。

『じゃあ私はこれで。また今度連絡する』
「ああ。サンキュな、ユズキ。また」

通信が切れた部屋に静寂が訪れる。隣室ではまだユーリが寝ていた。パソコンの電源を落としてイスの背もたれに寄りかかる。自分とユーリのポケモンは先刻ポケモンセンターに預けてきた。これで明日の朝一にシロガネへ向かうことが出来る。ついでに荷物も整理してやる。足りない回復アイテムの補充、脱出用の穴抜けの紐なんかもカバンに詰める。ここまでしてやる必要は多分無いのだろうが、心配だったのだ。ふと、赤い帽子が脳裏をよぎる。しばらく顔を見てない幼馴染。ユーリとあいつは少し似てる気がする、と思った。主に俺が面倒みてやらなきゃいけない点で。

「ったく、俺ってホント、」

苦労症。そう一人ごちて、グリーンは苦笑した。






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -