「よう、起きたかよ」

頭がグラグラする。ガラガラのあのパワーで殴られたのだ、自分の身体が無事なことにまず安堵を覚えた。まだ霞む視界の中、男たちがいるのが確認できた。

「ここ…は…」

さしずめ、アジトといったところか。殺風景な部屋の中に男が数人と、どうやら腕を拘束されているらしい自分。そこまで認知したところで、連れの不在に気づく。

「…っ、ウインディ、は…!?」
「あいつならご主人様がぶっ倒れた直後に逃げていったぜ? 薄情な連れを持つと大変だなあ、トレーナー様よお?」

ゲラゲラと笑う男たちの声を聴覚から排除する。ウインディは賢い子だ。きっと助けを呼んできてくれるだろう。何よりも彼がここに一緒に捕らわれなかったことに一番安心し、気づかれないように小さく息をついた。そんなユーリの胸中など知らず、男たちのリーダーがユーリに声をかけた。

「なあ、ねーちゃんよお。お前、強いんだよな?」
「は?」
「なんでお前、あんなところに通ってたんだ」
「そんなのどうだっていいだろ」
「いやあ、それがあんまりどうでもよくないんだよなあ。なあ、この状況見ればわかんだろ? 大人しくゲロったほうが身のためなんじゃねえ?」
「はっ、」

アホらしいとでも言うように鼻で笑って見せる。その程度の脅しなんかじゃ屈せないなあ、と心の中で呟いて、沈黙を貫くことにした。その様子に、男がいやらしく口元を歪める。そして声をワントーン下げて言った。

「この山のどっかによ、あのレッドがいるらしいんだ」
「…は?」
「なあ、手を組もうぜ。俺たちはあいつを探して晒し上げてーんだ」

耳を疑った。グリーンから聞いてた話じゃ、今はすっかり沈静化してきているみたいな話じゃなかったか。いや言ってなかったかも。まあこの際どっちでもいい。

「一応聞くけど、それに何の意味があるっていうんだ?」
「ここ数年、レッドの野郎は姿を見せてねえ。そいつが急に現れてみろ、かつての最年少イカサマチャンピオン様に食いつくメディアなんて山ほどいるんだ。金になるんだよ、結局はよお」
「イカサマ…チャンピオン…」

復唱する。レッドのことを指していると理解をして飲み込むまではやや時間がかかった。
グリーンが言ってたのはこういうことか。リアルタイムはきっともっと凄かったんだろう。1人の子供に対していい大人が馬鹿みたいだ。そうだ。

「なあ、本当はお前もレッドを探してたんじゃねーのか? …なあ、協力してくれよ」
「断る」

自分でも驚くほど、冷たい声が出た。来た、と何か確信した。心臓がドクドクと脈を打つ感覚がして、

「まあ普通はそういうよなあ? …でもさあ、このまま帰すわけにもいかないんだよな! やれ! フーディン!」

男がボールからフーディンを繰り出すのも、そのフーディンが何か自分に念力だか催眠術だかをかけようとしているのもわかっていた。でももう止まらない。腰につけた青いボールが震えるのがわかった。頭に血が上る。集まった血液で頭がクラクラして気分が悪い、でも。歪む視界も、こんなところで暴れたらいけないんじゃないかという躊躇も、そんなものは全部吹っ飛ばして。フーディンがゆっくりと倒れるのを視認して、ぎゅっと目をつぶる。

「なんだ!? 何が起きてる!? …なんだこの女…っ」
「…お前らがさあ、」

痙攣でも起こしているのかと錯覚するくらいにブルブルと震えるボールに手をかける。ーディンが放った念力の軌道がそれて、手首の縄を緩めていた。

「お前らみたいなのが今も昔もいるから、レッドが人を信じられないんだよねえ…」

ボールの開閉スイッチを押し込む。瞬時に肥大するそれは、確かにボールに反応があったことの印だった。赤く濁った目とさみしそうなピカチュウ、傷だらけになった彼の仲間たち。悔しそうに、悲しそうに笑って懺悔してみせた、自分に事態を任せてくれたグリーン。彼らが、レッドが、幸せそうに笑ってた「今」は、一体どこにいったのか?ゆっくりと立ち上がる。俯いたまま言葉を紡いでいたユーリが、徐々に顔をあげて、前を鋭く見据える。やがてその視線は男たちを捕らえ、射抜く。ボールが、開く。


「―――― ぶっ壊せ」









人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -