それから連日、レッドの元に通う日々が続いた。最初は険しいと思っていたシロガネ山も、何度か行き来すれば頂上まで行くのは難しくない。ナナミさんから毛づくろいセットを預かったり、グリーンから伝言を預かったり、オーキド博士から最新版のポケモン図鑑を預かったり。なんでもギンガ団事件のときのシンオウの男の子が完成させたらしい。図鑑を受け取ったレッドは珍しく嬉しそうな顔をしてしばらく弄繰り回していた。グリーンの伝言を伝えたときは眉間に皺が寄っていたが。

「ピーピ、ピカピッカ! チューウ」

先ほどから隣でピカチュウが林檎を抱えて嬉しそうにしている。あまりの喜びっぷりに、エーフィとレントラーが自分の分の林檎をピカチュウに差し出す始末だった。ピカチュウが林檎好きなのは多分どこでも同じだと思うが(個体差はあるだろうけど)、ここまで喜んでもらえると持ってきた甲斐があるというものだ。

「そんなに林檎好きなの?」
「ぴーかーちゅーう!」

満面の笑みを浮かべるピカチュウの頭をそっと撫でて、林檎の特売日はいつまでだったかな、と考える。

「じゃあ明日はアップルパイでも作ってくるかな」
「ピカ!? ピーピ! ピーカーチューウー!!」

足元にくっついて擦り寄ってくるピカチュウを可愛いなあと撫でていたら、隣からエーフィが頭突きしてきた。うん、こいつも可愛い。

「レッドも食べるでしょ? アップルパイ」
「ぶどう」
「そんなものはない」

次の日早めに起きて作ったアップルパイはなかなか良好。もちろんレーズンパイは無い。
ボーマンダでシロガネのふもとのポケモンセンターまで飛んで、いつものように山の入り口まで歩いていたときだった。もうすっかり工事も済んで、重機や作業用具の姿はどこにもない。

「…? ウインディ、あれなんだと思う?」

入り口のすぐ前で、不審な男が数人うろついている。明らかに怪しい。どこか不穏な気配を感じる。素通りしてしまったら何かまずいことが起きると、経験から直感的に感じる。

「あの…何してるんですか。こんなところで」
「アァ!? …なんだ、女か。なんでここにいる?」

一番手近にいた男に声をかければ、振り返るなり怒鳴られる。柄が悪いのは明白で、会話に反応してこちらを振り向いた他の男からも同じ空気を読み取れた。

「お頭ァ、このアマですぜ! 頻繁に来るアマって奴ぁ」

周りにいた男の一人が声をあげた。どうやら話しかけた男が親玉だったようだ。

「…何だと? こいつが?」

男はユーリをじろじろと眺めまわすと、どこか鼻につく態度のまま言った。

「おい、お前よくここに来るらしいな」
「…そうですね」


たった今言ってたじゃねえかよ。人の話も聞けない方なのでしょうか、それとも部下の報告は全部右から左な方なのでしょうか。口も柄も悪い男、群がる多数の子分たち。ろくな奴らでないことだけは明白だった。

「それで。私に用でしょうか。大した用でないなら先を急ぎますが」
「へえ…俺は威勢のいい女は好きだぜ」
「私は好きじゃありませんけどね。あなたみたいな人。…で、何です」

くつくつと喉を鳴らして笑う男に、生理的な嫌悪感を覚えた。要件をどうにか最初に戻そうと話を振った。

「…おい、連れて行け」

男が右腕をサッとあげると、子分たちが一様に構え…襲い掛かってきた。ここまではよく見たパターンだ。数も多くないし、正直人間相手なら対処は慣れたものだった。捌けない相手ではない。

「ウインディ、神速! そのままフレアドライブで蹴散らせ!」

苦もなくそれをやってのけたウインディがユーリの隣に帰ってくる頃には、親玉を残した子分たちは全員地面に伏せていた。親玉1人になったのを確認して、ユーリはふう、と息をつく。

「舐められてんなあ。ポケモンが隣にいるのに襲ってくるだなんてさ。…それとも、ここに来るトレーナーのレベルも把握できないの?」

ねえウインディ、そう呟きながら背中を撫でて親玉をみやる。黙って見つめ返してくるそいつに何か違和感を抱いた。…動揺していない。何かある、と思ったそのとき、男がその口を大きく開けた。

「ガラガラ! 峰打ちだァ!」

男の鋭い指示が飛ぶ。しまった、と思ったがもう遅い。どこからか姿を見せたガラガラが、白い大きな鈍器を持って、背後で笑っている。


シロガネ山内部の天然迷路を、ウインディが駆け登る。過去に主人が崩したことにより上階への移動経路が少ないこの中を、ボーマンダの力を借りずに突破することは彼には骨の折れる作業だった。それでも彼は走る。最上階を目指して。主人が連れて行かれてしまったという事実だけが、彼の頭を埋め尽くしていた。

バタバタと騒がしい音をたててやって来たウインディに、レッドは驚いた顔をした。普段はわりと温厚なウインディが騒がしいのにも驚いたが、彼の背にトレーナーが乗っていないことに驚いた。フィールドワークにウインディを連れるときは、あのトレーナーは大体その背に跨っている。跨りたくて四足のポケモンを選んで育てていると前に本人が言っていたのだから間違いない。それにも関わらずウインディしかいないということは、間違いなく彼だけでここまで来たということになる。嫌な予感がする。

「ピカー? ピーピ、チュウ?」

ピカチュウも異変を察したのか、話を聞くかのようにウインディに駆け寄る。後ろからレッドが近づく頃にはピカチュウも青い顔をしていた。

「…どうした? ピカチュウ」
「ピカピ…、ピカピカッ、チュウ!」

ズボンの裾を引っ張るピカチュウと、後ろからぐいぐいと押してくるウインディ。長年の勘とかそんな大それたものではない。もう疑いようがなかった。

あの女に、何かあったのだ。






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