トキワの森まで散策しに行った帰り、街角で見慣れた影を見る。ユーリはすかさず声をあげた。

「おーい、グリーン!」

合流してからは、そう、いつものようにトキワジムの裏手から入って、グリーンの部屋で話し込む。今日の話題はウインディの毛並みについて。お互い、ポケモンの毛並みやコンディションについては気を遣っているのでこの手の話題は盛り上がる。ウインディは特に毛量やタイプの関係で毛が傷みやすいので、手入れは特に重要なのだ。

「こないだデボンのとこの息子さん…あ、ほら、いつもお世話になってる。あの人に新しいデボンのポケモン用シャンプーもらったんだよ。そしたらこれがなかなかいい感じで」
「へえ…こっちに流通してきたら俺も試してみるか」
「言うと思った! ほら、グリーンにもおすそ分け!」

じゃーん、と言いながらカバンから取り出すのは、件のデボン製シャンプー。小さいサイズの試供品のようなものだったが、なかなかホウエンまで行けないグリーンにはそれでも有難いものだった。

「あとは通販なり向こう行くなり、買って来いよなー!」

ジムリーダーはこれ、あるんだろ?と指で輪を作って愉快そうに笑うユーリは、昔となんら変わらない。なんていうかやっぱり男友達と話してるみたいで、気が楽だし。気も遣えるし。それでも、だ。こいつにも一応男というものがいる。もちろんレッドのことだ。レッドの前じゃ女らしくなったりするのかとふと疑問がわくが、そんなところは全然想像できない。普段顔を合わせてる限りでは、隣にレッドがいてもいつも通りな気がする。じゃあ2人きりのときはどうなってるのか。想像してはこうだ、いやそれはありえない、じゃあこうなる、を繰り返し、繰り返し…ここまで来てしまった。わからないなら調べてみようホトトギス。よし。グリーンは無駄に気合を入れた。

「なあ、ユーリ」
「んー?」

コーヒーのおかわりを淹れに席を立ち、ユーリの背後にあるコーヒーメーカーの前で作業をする。そこで名前を呼べば、いつも通りに返ってくる返事。グリーンが席を立ったことにより暇を持て余し、ポケギアを操作しているであろうその気の抜けた返事は、すぐ背後にグリーンが立っていることに気づかない。

「…おいグリーン、何してんだ」
「見てわかんだろ」

抱きしめてんの。そう言って後ろから首に回した腕に力を入れれば、身じろぐユーリ。そのまま首筋に唇を近づけて、耳元までなぞって、

「ん…っ、ちょっ、何してんだよグリー…あっ…ん、やめ」

抵抗するかのように、まわした腕に爪が立てられる。そんな感覚ももの珍しくて、面白くてまた腕に力が入る。それでもこれはちょっとやりすぎだし悪いか、と思ってすぐにその腕を離した。

「はは、悪かったよ。ユーリってどんな反応するのかと思ってやってみた。それなりの反応すんのな、レッドも喜ぶだろうよ」
「…やってみたじゃねーっつーの! お前あとで覚えて、……」

眉間に皺をよせながら睨むユーリの動きが、ぴた、と止まった。

「あ? なんだよ急………に…………」




「……何、してんの。グリーン」




「あ、ああ、よう、レッド! 来るなら先に言えよな! 俺のギア番教えたろ?」
「レ、レッド! 今のは、その、そういうんじゃなくて! はは、は…」
「説明してもらうから。俺にもコーヒー」

修羅が、そこにいた。




ATTENTION!
(ユーリ、帰ろう)
(え、あ、わかりまし…痛い! 引っ張るな!)
(…覚悟できてるんでしょ?)
(!?)






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