「ったく、あのバカ…」

ポケギアの電波が届くのはジョウトとカントーの中だけだった。だから、ユーリがそれ以外の地方―ホウエンやシンオウ―に行っていたあいだは、ユーリからの連絡を待つことしかできなかった。だから、その間の彼女について知らなかったのは当然ともいえるが、事態が事態なだけに、リーグ本部直轄のジムリーダーとしてこの事件について知らなかったという事実はひどく自分のプライドに傷をつけた気がした。ユズキから送られてきた書類を読みながら、グリーンは自分に毒づいた。ユズキが送ってきたのは、ここ数年間の所謂「裏社会」の調査書。その資料の中でも一際目立つのが、数年間の間に急激に組織数が減少していることについて記載されたものだった。かの有名なホウエンのマグマ団、アクア団、及びにシンオウのギンガ団も例外ではない。それぞれ地元のトレーナーたちが倒したと連絡が入っていた。が、あれだけの巨大組織が連続して潰れるのはおかしいと思った当時を思い出す。それが、この資料で納得できた。いや、納得せざるをえなかった。資料には、それぞれの巨大組織と提携していた中小組織が、事前に悉く壊滅していたと記載されている。つまり、各組織は既に追い詰められた状態でとどめをさされていたことになる。各地方の少年少女たちが表舞台で真っ当に悪とぶつかる前に、その下準備を勧めてた奴がいた。そういうことになる。資料の間に、数枚の写真と1枚の文献が入っていた。

『○年×月、ホウエン地方ムロシティ北部の石の洞窟にて、極めて凶暴な色違いのボスゴドラの個体を確認。個体は洞窟を破壊したのち、ムロシティにて―――』

そう続いた文書の最後の一文をまた目で追う。もう何度読み直したのかわからない。

『個体はジョウト地方出身のフウマ ユーリが捕獲。彼女は戦闘の中で重症を負ったが、一命を取りとめた』

写真は裏社会の間で流通している会報らしきものの切り抜きだった。標準より少し大きいボスゴドラと、その傍らにいるトレーナー。そしてもう一枚、「WARNING」と書かれたコーナーの切り抜き。

「…青いボスゴドラ……死神に注意、ね…」

目蓋をとじて眉間に皺を寄せる。端正な顔立ちが歪んだ。

『グリーンさー、青いボスゴドラって知ってる?』
『ひ、人なんだ』

きっと俺が知らないことに安堵したに違いない。本人の意思かどうかは知らないが、悪党を潰し歩いて、裏道歩いて生きていたことを、知られたくなかったのだろう。何度も何度も読み返した文献の、『定かではないが』と前置きされた一説を思い出す。

『この個体から、特殊な磁場が発生している。これだけ巨大、凶暴なボスゴドラが今まで発見されなかったのは、その磁場と何か関与があると考えられる』

『磁場は周囲の人間の怒り、悲しみなどの負の感情を感知する、もしくは増幅させている可能性がある。この個体が発見された際、近辺にてマグマ団・アクア団の抗争があり―――』

『負のエネルギーの増幅、拡大により沈黙状態にあった個体が目覚めたという可能性も―――』

人の感情に応じて暴れだす、色違いの青いボスゴドラ。悪党泣かせの死神女、ユーリ。


「あの、バカ」

どうもやるせなくなって、グリーンはイスに背を深く預けた。






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