レッドが僕の手持ちに興味を示すようになってから、彼との関係が少し変わった。…とは言っても僕が警戒体制をとるのをやめただけではあったけど。レントラーとピカチュウがバチバチと電気交換をしているのを何するでもなく眺めるレッドを遠巻きにしながら、鳴っているポケギアを手にとった。
「もしもし?」
『ユーリちゃん? ユズキだ。大丈夫?』
電話をかけてきたのはフウマさんだった。用件は2つ、予定よりも早く山の入り口を開けられそうなことと、もう1つは今日からしばらく街でも雪が降るとの連絡だった。
「下でも降るなら納得です。最近やたら寒いですから」
『ああ、暖かくしたほうがいい……レッドさんはどうだ?』
「ん…大丈夫だと思います」
今のどうだ、にはきっと多くの意味が込められている、と思った。彼女からの伝達役であるヤミカラスは僕が山に入ってからは来ていないようだ。まあ僕がいるんだから僕づてに連絡取れるし。電話を切って、天井の穴から空を見る。確かに雪雲はいつもより厚かった。同居人とでも言うべき帽子の人に伝えるべく、少し大き目の声を出す。
「レッド、今日から下でも雪だって」
相変わらず返事はないが、視線が自分へと移り、また明後日の方へと流れていく。以前のような無反応ではなかった。
ユズキさんから電話が来てから2日がたった。
「なん…か…今日……寒くね…」
天井を見やれば、穴から見える空が荒れまくっているのが伺える。あまりの寒さにウインディにしがみついているが、そのウインディも微かに震えていた。
(…なんでこいつ表情ひとつ変わらないの)
僕と同じように震えているピカチュウを膝に乗せ、しばらくじっとしていたレッドは急にピカチュウをボールに戻した。そのまま腕を組む。びゅう、と吹いた風が入り込む。僕もレッドに習ってウインディをボールに戻し、体を丸める。
「…寒くないの?」
そこそこ服を着込んでいる僕でも寒いのだ。半袖のレッドが寒くないわけはない。この猛吹雪だ。雪が直接降りかかるわけではないが風に乗って飛んでくるし、天井の穴も本来は穴と言って済ませられる大きさではない。呼びやすいから穴って呼んでるけど。
「寒いよ」
特に問題が無いような声音で言ったレッドに溜め息をついた。先ほどから腰についたボールたちが騒がしい。ボールから出て主を暖めようと暴れるポケモンたちを、上からぐっと抑え込む。
「…騒ぐのか」
「うん。でも今日はダメ。寒すぎる」
風邪なんて引かせられないよ。
「レッドだって。だから戻したんでしょ、ピカチュウ」
返事には答えず、きまり悪そうに帽子を深くかぶり直したレッドを見て、つい笑った。