「…何話してたの」

先刻の電話から数時間。下の階へと降りたユーリはグリーンへと電話をかけた。詰所から出てジムへ戻る、と半ば強引に切られてしまったため、少し機嫌が悪い。

『何の話だ?』
「とぼけないの。あいつと知り合いなんだろ」
『…あー…今どこにいる? あいつと一緒か?』
「いや、下のフロア」

しばし沈黙が訪れる。この2人にしては珍しく、張り詰めたような空気だった。

「だんまりってのは無しだからね。僕しばらくあの人と顔合わせて過ごすことになるんだから」

何か知ってるに越したことはないでしょ、というユーリに重めの溜息で返事をしたグリーンは、ぼそっと、本当にぼそっと言った。

『…レッドだよ』
「え? なに?」
『レッドだよ、レッド。俺の幼馴染の。何回か話したろ、それに、』

テレビとかラジオとかでも、たまに。そう言おうとしたのに、なぜか口が開かない。

「…え、」

レッド。確かに何回か話題に上った覚えはある。グリーンの幼馴染で、かつて彼とチャンピオン争いをしたとかなんとか。他にもある。ロケット団をたった一人で壊滅させ、異例の速さでリーグ入りを果たし(これはグリーンもだ)、脅威とも言える強さで頂点へと上り詰めた、所謂伝説と呼ばれるポケモントレーナー。それがユーリの知るレッドだった。それが目の前に現れるだなんて思ってもなかった。

『あー…でも大丈夫だ、あいつは、』
「すげー…すげーよそれ! 何でもっと早く言ってくれなかったんだよ! 僕ちょっと勝負してもらってくる!」
『おいコラ! 待て!』

「あいつ…テレビとかラジオとか、聞かないのか…?」

切断音だけを流すポケギアを片手に、グリーンが複雑そうに呟いた。




ユーリが上のフロアへと戻ると、レッドはさっきまでと同じようにぼうっとしていた。

「…ねえ」

声をかけるが反応はない。

「自己紹介、しなおそうよ。僕ユーリ。あんたはレッド、だろ?」

出身はジョウト。これでも一応全国は行ってきた。グリーンとは友達。適当に並べ立ててみたが、レッドは相変わらずの無反応だった。聞いているのかと怒声をあげそうになったがなんとかこらえる。レッドの座る岩の隣に腰かける。ごつごつしてて凄く痛いが、床の冷たさに比べればいくらかはマシだ。

「まだ旅に出たばっかりのときにグリーンと会ってさ、それから面倒何かと面倒見てもらってるんだ」

握手のつもりで目の前に手を差し出してみる。微動だにしない。仕方なく引っ込めて、めげずに言葉を探した。

「あー…さっきの地響きとか、あ、電話の件なんだけど。ちょっと下のフロアで事故起こしちゃってさ。しばらく出れないんだ。迷惑かけっぱで申し訳ないんだけど…ちょっとここの空間、端っこの方でいいから借りるね」

どうにもこうにも無反応で困った。やりとりを見ていたピカチュウが耳を垂れ下げる。それを見ながら本題を切り出した。

「…せっかくだから、バトルしない?」

サッと、視線が動いた。ただ一言。それだけのために。これはいけるか、と期待をして待つ。

「…しない」
「…え、」

口を開いた、とか喋った、とか思う間もなかった。ゆっくりと立ち上がってこちらを見るレッドの眼が、あまりにも冷たかったから。

「もうしない」

冷たく、射抜くような視線。人を拒絶するような意志を宿していることに、今気がついた。修行にきたなんてとても思えない。


人と会いたくなくて、ここにいるのだ。この男は。







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