『ユズキにさっきそっちの状況を見に行かせた。入口が塞がってやがった…穴抜けも使えない』
「脱出手段が無いね」

テレポートが使えればよかったんだけどな、とグリーンが電話の向こうでこぼす。ユーリは天井を見やり、空いたところから見える空を眺めた。厚い雪雲。雪がやむとは到底思えない。この雪の中、ボーマンダを飛ばせるわけにはいかなかった。

『ざっと見積もっても、入口を開けて安全に通れるようにするには一月近くかかる。大丈夫か?』

一月。長居するつもりでいたから、食料を無駄遣いしなければ問題はない。ユーリは隣の男を盗み見た。問題はこいつ。

「僕は大丈夫。… あー…、ねぇ、アンタはどうする? 一月だって…あ、山崩れの話。さっきの地響きの…」
『…? 誰と話してるんだ?』
「いや、さっき会った人…ちょっと、聞いてる? 一月――…」


頭の中で何かが走った。ユーリの声が遠く聞こえる。
さっき会った、だって?誰だ?
グリーンの把握しているままなら、レッドはシロガネ山の最奥にいるはずだ。最上階フロアの、あの大きな、広い場所だ。まさか、ユーリがこの数時間でそこまで行けるとは考えにくい。山崩れ。その単語が脳裏をよぎる。山崩れによって内部の地形が変わっていたら?レッドが最奥でなく、下のフロアにいたとしたら?受話器をつかむ手がじっとりと汗ばむ。まさかこんなに早く会うなんて思ってなかったんだ、万が一にもユーリが最上階に辿り着くなんて、ましてやあいつと顔を合わせるなんて、もっと先のことか、訪れないことだと思ってたのに。

「ユーリ、そいつと代わってくれないか」
『え? …あぁ、いいけど。ほら、電話。向こうが代わってくれって』

どこか怒気を含んだようなユーリの声。隣にいる奴はどうにも意思の疎通に向いてないらしい。受話器を強く握り締めていると、ポケギアが人の手から手に移る気配がした。電話口の向こうの空気が、変わる。

「…もしもし?」

返事はない。それでも、この沈黙をグリーンは知っていた。この会話が吉と出るか凶と出るか。ユズキにあれだけ自信満々に言ったのに、それでも自分はどこか恐怖を感じているのだ。

「…久しぶりだな、レッド」

微かに、電話の向こうの雰囲気が変わる。先刻より少しだけ柔らかい。グリーンは安堵からため息をついた。大丈夫だ。こいつはまだ。信じてやれる。信じていいのだ。レッドを。たった一人の幼馴染を。

「よかったよ、元気そうで。お前なーホント、連絡のひとつくらい、」
『……俺の、』

小さく聞こえた呟きに、グリーンは悲しそうに笑った。

「…大丈夫だ、元気だよ」








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