藤原優介は甘党である。それも極めつけの。かつてはリオも自称甘党の一人だった。この藤原優介との出会いが「かつて」と称する理由であるのは説明するまでもない。
リオが甘党なら、藤原優介は超甘党の名を欲しいままにする男だった。コーヒーにも紅茶にも容赦なく砂糖をぶち込んで嚥下する有様は、もうオベリスクブルーの食堂では珍しい光景ではない。そして本人曰く、まだこれは抑えている方だとか。

そんなある日のこと。

「ねえねえ、リオ」
「吹雪、」

授業あがりに声をかけてきた吹雪と廊下を歩く。少しだけ声を潜めた吹雪は、リオと距離を少し縮めた。

「藤原って甘党だろう」
「そうだな。それがどうしたんだ」
「普段は紅茶とかコーヒーとかに砂糖入れるところしか見てないだろ? 僕たち」
「まあ、そうだけど」
「気にならない?」
「何が?」
「他のときはどうしてるのか」
「…は?」
「だからあ、」

縮めた距離を途端に離し、おおげさに両手を開いてみせる。声を潜めた意味とはなんだったのか。

「藤原は僕たちといない間どんな食事をしてるのかってことだよ!」






「何もこんなマネしなくたっていいんじゃ、ないの…?」
「わかってないねリオは! 藤原が一人になるとき、それはすなわち! 休日であり僕たちとの予定が入ってない週末、つまり今日しかないんだよ! ねえ亮!」
「あ、ああ」
「亮だって引いてるだろうが! 正直私は見たくないから一人でやれよ」
「またまたあ。そんなこと言ってリオだって本当は気になるだろ? 気になる彼の好みだもんねえ…?」
「なっ、」

思いがけない発言に軽く動揺して否定するが、吹雪はくすくすと笑って取り合わない。
恋の魔術師である僕の目は誤魔化せないよ、そう言う吹雪の後頭部を軽く殴って黙らせた。リオたちはオベリスクブルー寮の学食の隅で、一人朝食を取る藤原の行動を監視していた。とうの藤原は食堂のカウンターでトレイを受け取り、席に着いたところである。

「おい、なんか持ってないか優介のやつ」
「僕にはちょっとなんだかわからないな…亮、見える?」
「…上白糖の入れ物じゃないのか、あれは…?」
「「上白、糖…!?」」

亮の言葉に吹雪と2人して目を凝らす。どうやら今朝は卵かけご飯らしい、生卵を器に割り、溶き…そこに、上白糖が加わった。大さじ、5杯分。

(たまご…かけごはんに…砂糖…!?)
(わからない、僕にはわからないよ…! 卵に砂糖を入れるのは玉子焼きだけだよ…!?)
(白米と合わせたらあれは糖を取りすぎなのではないか…? いや、藤原はそれほどまでに物事を考えるのかもしれない…!)

各々思いをめぐらせているあいだに、朝食が終わったのか藤原は席を立つ。いち早く気がついた吹雪が両脇の2人をつつき、気を取り直したように3人も席を立った。

休日のデュエルアカデミアでは、思いがけないところで屋台が出ていたりする。これはデュエル疲れを癒すためという名目でオーナーである海馬社長が提案したものである。
そんな屋台が出ている中庭へと向かう藤原の後を追い、人や物陰に隠れながら3人も移動する。藤原はふらふらと屋台の間を歩き、ところどころで立ち止まり、やがて1つのベンチに座る。その手に握られている物体を見て、またもや3人は絶句する。

「おい吹雪、クレープ…だよな、あれは」
「あとあれ…クリームフロート、だよね?」
「…特待生証を店の人に見せていたな」
((職権乱用…!?))

遠目なのでよくはわからないが、右手にチョコレートソースと生クリームが尋常でないほど乗ったクレープ、そして左手にはまたこれでもかというほど生クリームを山盛りにされたフロートを持っているのが見て取れる。ちなみにフロートのクリームの上にも何かソースがかかっているように見える。明らかに仕様以上の量であろうそれを特待生という立場を利用して得たらしき藤原は、それを何事もないかのように平らげた。そして彼はまた歩き出す。胃と脳髄を満たすための糖分を求めて。



「吹雪」
「なんだい」
「もう…よくないかな」
「…うん」
「なんだか俺も…胃がもたれてきたような気がする」

正午を回った頃だった。起床してからほとんど食べ物を胃に入れてないにも関わらず、そしてまだ昼時であるにも関わらず、3人の胃は既に不調を起こしていた。人の多くなってきた食堂でげっそりとしながら、うな垂れる。そこに現れたのは、この状況を起こした張本人だった。

「あれ、どうしたの3人とも。休日に固まってるなんて珍しいね」
「…は、ん…!? っ優介!?」
「や、やあ藤原! どうしたんだい!」
「…!!」
「えっ、なんだよ皆して」




Don't eat more!




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