「おはよう」
「…おはよう」

私は目の前で笑みを浮かべている男を見てため息をついた。同時に男の足元に出来ている血だまりに目を落とす。

「俺がいるのにため息とかつく? 普通」
「…」

優介はおかしい。そう気づいたのは何ヵ月か前のことだ。部屋に閉じ籠もり授業にも出ず、たまに顔を見ると痛々しいまでの隈を作っていることがほとんど日常的になった。流石に見ていられなくなって何か出来ることはないかと切り込んだ結果、なぜかこうして優介の面倒をちょこちょこ見るはめになった。躁鬱。そういう言い方は多分間違っていない。藤原優介は躁鬱病だった。昨日は呼び出されたあと何か目のギラギラした優介に抵抗する間もなく押し倒され、起きたらこの有り様。そろそろ躁と鬱のサイクルが掴めてきたおかげで予想はしていたものの、いざとなると何も出来ないものだ。

目の前で不気味に薄ら笑いを浮かべた優介は、血の滴る腕を煩わしそうに振る。飛沫が周囲に飛んで私の目の前に落ちた。

「元気になったかよ」
「何いってんだよ? 俺は元々元気だろ」

何言ってんだか。

「今なら出来そうな気がしたからやってみたんだけどさ、全然駄目。貧血にすらならない」
「元気ならその床掃除してくれ…」

やだ。そう言って優介はベッドに腰かけた。緩く沈むベッドを腰下に感じる。また痩せた気がした。

「なあ」
「何、」

急に伸びてきた指が、私の頬に触る。冷たい指だった。

「俺のこと、やっぱりうざいって思うだろ」
「…は、」
「本当は後悔してんだろ、俺に声かけたこと、さ、」

声に涙が混じる。目にもみるみる涙がたまり、まばたきをしては落下した。程無くして嗚咽を洩らし出した優介を見つめながら私もまた泣いていた。どうしてなんてわかりきっていた。わかっている。そうだ。別に優介の言うことが的を得ていたからではない。的を得てなお、それが私の心を揺らすことがなかったからだ。

きっと悲しくて辛いのだ。人として常軌を逸してしまったことが。異常をきたしては人にこうして迷惑をかけ、なんのためらいもなく腕を切り、死という免罪符を欲しながらその死にすら拒絶される。
泣きながら謝罪するのだ、周囲に、自分に。自分の罪に耐えられずに。世界に耐えられなかった罪を。壊れてしまったことへの、贖罪。

そしてそれはきっと、私も同等なのだ。









破壊してハッピーエンド






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