「なあなあ次はあれ行こうぜ!」
「ああ、いいよ」

彼女は今日も笑っていた。

「次の休暇はあそこに行こうぜ! 俺がつれてってやる!」
「そうだな、それでもいいよ、ヨハンがいるなら」

彼女は今日も笑っていた。


「… なあ、いいだろ?」
「ヨハンなら、構わないよ」


彼女は今日も笑っていた。
いつでも笑っていた。


でも俺は知っている。彼女の笑顔がつくられたものであることを。綺麗に、幸せそうに笑ってみせるその笑顔の裏が空っぽだということを。きっと俺だけじゃない。だって見ていれば解るのだ。ふいに隙をついて出てくる、空虚とも呼べる表情を貼りつけた彼女の横顔を見れることはそう滅多にあるものではない。それでも夕方、灯台の下で一人、じっと海を見つめる彼女の後ろ姿からは確実に、得体の知れないなにか禍々しいものを感じるのだ。それは人間が知らないものに感じる恐怖とも、かつてこの学校で名を馳せたデュエリストとしての畏怖とも、はたまた一人の女としての孤独を感じさせるものであり、そんな彼女を見ていると、やはりヨハンの面影など彼女の中には無いのだと思わされる。

彼女はきっと優しすぎた。そして同時に、淋しさに耐えられない人種であるのだろう。そんなふうに陰を背負って海を見続けるくらいなら、ヨハンなんて捨ててしまえばいいのに。無理するのをやめたらいいのに。そこまで考えて、やめた。それが出来たら彼女はこうはならなかった。出来なかったからきっと、彼女はこうなってしまったのだ。

海の向こうに彼女が見据えるのが誰かは知らない。だって彼女のことは俺だってよく知らないのだ。

もうすぐヨハンの留学期間が終わる。きっとあいつは、馬鹿みたいに真面目な顔をして言うんだろう。俺と一緒に、国に帰って欲しい。そして彼女もまた酷く綺麗な顔で、きっと彼女にとって、酷く残酷な嘘をつくのだろう。








海に沈んだハッピーエンド






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