暗い部屋には僕と彼女しかいない。手元には握りしめたナイフ。


僕はそこそこいい家の出だった。だからたまに実家に帰れば、両親が決めた許嫁が部屋で僕を待ち構えている。僕がクルーザーを買ったのはそれを回避するためだ。自分の「帰る場所」を別の場所に設置する必要があったのだ。
彼女は僕とは同じようで少し違っていた。もともとはいい家だった。ただそれだけ。傾いた彼女の家は大きな家に支えてもらわねばならなかった。そのための生け贄が彼女と言うだけ。

状況だけみたら僕と彼女が一緒になれば全てが解決するだろう。でもそれは違うのだ。所謂大人の事情。僕ら子供は、それをただ黙って飲み込むしか出来ないのだ。

「なあエド」
「なんですか」

彼女と僕の出会いは大したことではなかった。生け贄の運命から逃げてきた彼女が僕のもとへ納まっただけ。そこまで至る過程は…今となっては語る必要性を感じられない。どうせここで終わるのだから。

「普通がよかったよな」
「勿論。…今までに何度思ったことか」

普通に出会って、普通に恋して、普通に手を繋いで、普通に抱き合って、普通に結婚したかった。普通に生きたかった。でも、その「普通」を逸した僕たちに、そんなことは許されない。
手に入ったものは出会いだけ。今となれば、それだけでも十分かもしれない。

「先輩、新婚旅行はどこがいいですか?」
「どこでもいいよ、お前がいるところなら」

僕もですよ、そう伝えたら、彼女は幸せそうに笑った。





飲み込むだけの子供はもういない。
僕は今、子供を脱出する。勿論、彼女と一緒に。







僕らなりのハッピーエンド






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