「なあ、わかった?」

十代が私を呼び出したのはつい1時間ほど前だった。彼がよくサボりにつかうこの場所は、なるほど空がよく見えて、昼間寝るよりも天体観測に向いていると思った。
もう陽が落ちてから数時間たっている。昼間よりぐんと下がった夜の気温は制服姿には堪えた。月も明るい。

「ごめん十代、何がなんだか、…もう一回」

その私の言葉に、十代は露骨に不機嫌そうにした。

「聞こえなかったのか?」
「あ、ああ」

背中に嫌な汗が流れた。
私が自意識過剰のナルシストでなければ、つい数分前に十代に告白された。やナルシストじゃなくても告白されたと断言できる。好きなんだ。そういった十代はいつになく真面目な顔をしていたから、本当なんだと思って、私も肯定の言葉を述べたように思う。

「しょーがねえな、」

もっかいだけ言うぜ、十代は静かに私に覆い被さると、そのまま押し倒した。月明かりの逆光で顔はよく見えない。

「カイザーのこと殺してくれよ」

そう言った彼の唇は確かに、楽しそうに歪められていた。

「あいつがいるとお前が俺のもんにならねーの」

十代の長い指が私の首に絡む。ぐ、と力が込められて、呼吸が詰まる。

「俺がどんだけ先輩のこと好きか知らねーだろ」

俺より高い身長も俺より長い指も、このきっつい目だって、悪趣味なオカルトデッキすらも、まな板みてーな胸も可愛いことなんて言えねーこの口も、ぜんぶ、全部大好きでこんなに愛しい。ああ、知らねーんだろ、俺こんなにお前のこと好きなのに、

「か、はっ、うぇ、…っぁ、」

赤く染まってく視界にうつる十代が、泣きそうな顔をしていた。呼吸は出来ない。圧迫される気管が悲鳴をあげる。こんな十代を私は知らない。こんな泣きそうに歪んだ顔の十代は知らない。

「証明してみせろよ…カイザーより俺が大事だって」
「っ、ぐ」
「出来ないだろ? 出来ないんだろ!」
「…っ、あ」

俺はお前のためならなんだって出来るぜ、誰だって殺せる、それがカイザーだろうが翔だろうが、お前が望むならお前のことだって。

「だけどお前は違うじゃんか、いつもカイザーばっか見てるじゃねーか!」

俺を見てるんじゃねーんだ、いつも俺ってフィルターを通してカイザーを見てる。カイザーって存在が、お前を束縛してるんだ。だからカイザーを消さなくちゃなんねえ。俺のためにも、お前のためにも。

そんなことない、とは否定出来なかった。でも十代が想像しているように亮を思っているのかと思えば、それは違う。確かに私は亮を見ていた。でもそれは唯一無二の親友としてであり、カイザーという異名をもつ彼への尊敬の念であり、同時に畏怖すらも含まれた。そんな彼に近づいていく十代が見たくて、亮と肩を並べる十代が見たくて、後輩よりも、弟的存在よりも、男として見ることを選んだのだ。

「…は、はあっ、はあ、は、」
「くそ、」

圧迫が緩んだ。長いこと力を受けた首の部位は軋んだ音をたてて酸素をとりこむ。十代はそのまま自分の顔を押さえ込んで低く呻いた。

「じゅう、だい」



「なくな、よ」



ただそれしか言えなかった。未だ霞む視界の十代が揺れる。彼は私を愛しすぎた。同時に私も、彼を傷つけすぎたのかもしれない。
彼にかけるべき言葉を、結局私は見つけることが出来なかった。








Where is the Happy End?






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