「じゃあ、行ってくる」
「ええ、いってらっしゃい」

バタン、と大きめの音を立てて扉が閉まった。遊星は仕事。クロウも配達でいない。ジャックはいつも通り、コーヒーショップにでも行っているのだろう。家には誰もいない。私だけ。サテライトにいた頃はこんなことはなかった。あの無法地帯で女という生物が一人でいるのはとても危険だったから、いつも遊星たちが傍にいてくれた。ここはサテライトではない。シティなのだ。それに、シティにいる人間くらいなら私一人でも対処できる。心配は必要ない。

「…随分と嫌な女になったものね、私も」

私が遊星の傍にいないということは、つまり、当たり前だが遊星は私の傍にいないということだ。こうして私が物思いをしている間、きっと遊星は他の人といる。それが男か女かなんていうことは関係ないのだ。1日の中で外に出ている時間が長くなるということは、それだけ、遊星が私の傍から離れているということなのだ。そしてその時間が長くなればなるほど…遊星は、私のことを忘れていく。遊星の心の隙間から私がこぼれて、別の誰かで埋められていくのだ。そしてきっと、やがて私は、遊星の心から消えてしまう。いくらそれが先のことだとしても、それを考えただけで、胸が苦しくて、張り裂けてしまいそうなのだ。

「……っ、」

わかっているのだ。自分勝手な思いであることも、きっと杞憂であることも。遊星は仲間思いだ。そして、自分は遊星にとっての「仲間」であるとも自負している。だからこそ怖いのだ。ありえないと信じていることが、ありえてしまうこと。私が、忘れられてしまうこと。遊星が隣に女性を連れて、家に帰ってきてしまうこと。私をおいて、どこかへ遠くへと行ってしまうこと。そのとき、私はどんな顔をしたらいい? どうやって生きていけばいい?

強くなければいけないと思っていた。あのサテライトで弱いままでいることは、それは自分を、ひいては仲間を危険にさらすことに他ならない。強く生きていたい。まっすぐ前だけ見て、遊星を支えていられる、そんな強い人間でいたい。それはすべて遊星のためなのに(もちろんジャックやクロウのためでもあるけれど)、その遊星が私を弱い人間にさせてしまう。これは皮肉でもあり、私の唯一の弱点でもある。

わからないの、どうあるべきなのか。
わからないの、どうしたら遊星の隣にいられるのか。
こんなにわからなくなるのは、悲しくなってしまうのは、遊星、あなたがいないときだけなの。遊星、遊星、早く帰ってきて。私の傍にいて。遊星が隣にいてくれるなら、私きっと強いままでいられるの。強いままでいさせて。あなたが見てくれる私のままでいさせて。


「おかしい…わね、本当、わたし」




言えないの、あなたがいないこの部屋が怖いだなんて。




誤魔化すだけの魔法をかけて






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