「何…してる、んだ」
「遅かったな」

授業も終わって寮の自室に戻れば、最近出来た自称未来人の居候が盛大に部屋を散らかしていた。


「これはいつの写真だ? 中等部くらいか?」
「だー、あー! やめろ! せっかくしまっておいたんだからやめてくれ!」

手に握られているのは少し幼顔の自分の写真。普通のアルバムはもちろん、卒業アルバムや親が送ってきたまま整理してない写真がそこかしこに散らばっている。パラドックスが持っているのはその内の1枚だろう。しまい直すのも確かに面倒だが、それ以上に昔の写真は見られたくない。吹雪たちにも見つからないように隠しておいたのに、どうして見つけてしまうのか。

「そもそもなんでこんなもの…」
「暇だったのでな。部屋の捜索だ」
「部屋主の許可なく家捜しするんじゃない!」
「家捜しというものは許可を得てするものなのか?」
「知るか!」

勢いに任せてパラドックスの後頭部を叩けばパシンといい音がした。不満げな視線を寄越す眼下の男に果てしなくイライラした。なんでお前が不満げなんだよ私のほうが不満だよ。

「…? この男は誰だ?」
「ああ? …んー、そいつ…は、」


中等部のときの写真の束から、パラドックスは1枚の写真をひらりと摘み上げた。その仕草がいちいち優雅でさらに腹が立つ。毎日飽きるほどカードは触ってるけどこんな優雅な仕草出来たためしがない。
写真に写っている人物についての記憶を掘り起こすのはあまり気が進まない。思い出すことは簡単だが、過去にあったことを処理するにはもう少し時間が必要な気がした。写真に写る自分の隣には当時の友人と、もう反対側に一人、男が写っていた。

「中等部のときの友達。…友達だよ」
「お前でも歯切れの悪そうな物言いをすることがあるのだな。新たな発見だ」
「黙れ」
「で、なんだ」
「は?」
「この男はなんだと、聞いている」

あくまでも興味が無さそうに、それでいて質問には答えろという無言の圧力をかけてくる。妙に傲慢で偉そうで、それでも確かに博識でなんでも出来て、たまに謙虚そうにする同居人のこういう仕草にももう慣れた。だからこそ、出来事を処理出来ていなくても言葉にしようと思えるのかもしれない。

「…途中まではわりとつるみやすい奴だったんだよ。でも」


突然想いを告げてきた彼の顔を今でも覚えている。もっとも、今まで良き友人として接してきた友人が自分をそういう目で見ていたという衝撃とショックの方がはるかに大きく、あのときの生々しい感情とともにまだ胸の中で燻っていたのだが。
一方的な愛、中学生といえどその愛には微かに肉欲も混じっていて、それを含めて愛される、もとい求められるということは、ときに耐えられないほどの荷となるのだとあのとき学んだ。

「ほう、で、それからは疎遠になったというわけだ」
「まあ、そういうことかな」
「なるほどな。よくわかった。お前を見ていて感じていた違和感の正体がな」
「はあ?」

パラドックスはくつくつと笑って、その長い指を柚希に向けた。

「あの3人でも同じことが起きないかと、お前は怯えているのだろう」


背筋に衝撃が走った。
柚希の脳裏に、友人3人の顔が浮かぶ。吹雪はともかくとして、亮と優介はあまり恋愛ごとに近い印象が無い。仮に何かあったとしても、相手を選べるだけの実力と、それに見合うファンの女の子が彼らにはついている。3人とも。
吹雪はともかく、亮と優介がそういった恋愛感情を万が一にも自分に向けてしまったら。今の段階で想像出来ないことは、予測が出来ないことというのは恐怖だ。それに、3人が性欲だのなんだのという何か不純なものと関わりがあるとはあまり考えたくなかった。何よりも彼らとの今の友人関係が、そういった恋愛絡みのことで崩れてしまうことを恐れていた。かつて自分が、想ってくれた男を拒絶して居心地のいい関係を壊してしまったように。想われることは正直、柚希今のにとって重荷であり、恐怖でしかない。

「簡単な話だ。愛されることが怖いなら自分が先に愛してしまえばいい。1人愛してしまえば、そんな恐れなど無かったことにできる…自分がそちらに踏み込んでしまえばそんなものは気にならなくなるのが一般論だと思うがな。それとも、そんなちっぽけな恋愛感情の1つや2つで崩れるような関係しか築いてこれなかったのか、お前は」
「うるさい。大体、私はあいつらをそういう目で見たことがないんだ。仮定で話を進めるな」

むきになったように反論する柚希を子供だなと一瞥して、パラドックスは不敵に笑った。

「愛する対象などどうでもいい。愛されることに怯えているなら、先に愛してしまえばいいのではないかという提案をしているだけだ。そのあとの保証を私に求められても困るがな」

散らばっていた写真をまとめて、元々入っていた紙袋に放り込む。開きっぱなしになっていたアルバムのページを閉じながら、パラドックスは続けた。

「どうしてもその恐怖を克服できないなら、私が過去に行ってその男を殺してきてやろう。お前は友人を失わなくて済むし、愛されることと肉欲の対象になることに怯えることもなくなる」
「気持ちはありがたいが、頼むから平和的に解決してくれ。友達じゃなかったとしても、知り合いが突然殺されたらさすがに気が触れる」
「冗談だ」
「冗談には聞こえなかったぞ!」

写真を片付けながら、自称未来人の居候は言う。

「お前がどう選択しようが、最終手段には私が手を貸してやる。お前が納得するような形で愛してやろう」
「…何言ってんだよ。告白のつもりか? 気持ち悪い」

冗談だとわかっていても、下心など明らかに皆無な台詞だとわかっていても、思わず眉間に皺が寄る。顔を見れば、涼しい顔をしたパラドックスが平然と片付けをしていた。まるで何事もないかのように、呼吸でもするかのように平然ととんでもないことを言った。気がするけど聞き間違いかもしれないとさえ思った。

「馬鹿を言え。ただの憐憫だ」







告げたら君は目を背けるでしょう?






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -