「だからさぁ、柚希…ね?」
「わかってるんだろ?早くしろ」
「柚希、その、」
「「「早くチョコをくれ(ないかな?)」」」

「自分の隣の山を見てから言ってくれないか」


今日は2月14日。普段はデュエルで頭がいっぱいなこの学校の男子も、今日ばかりは静かになってそわそわとしている。そんな中で、やっぱりというか、普段とあまり変わらないのがこの3人であった。特にやることもなくぼーっとしていた柚希の部屋に、いつものように転がりこんできたのだ。いつもと少し違う所といえば、大量のチョコレートを部屋に持ち込んできたことくらいであろう。

「僕56個! 藤原は?」
「ちっ、今年は52個だ」
「勝ったー! ねえねえ、亮はいくつだった?」
「60個だ」

こんなやりとりを続け、やがて冒頭のセリフが吐かれる。

「おいおい…まさか、普段から世話になってるこの藤原様にくれないなんてこと、ないよな?」
「僕ね、柚希からのが欲しいんだって。わかる?」
「…」

あくまで上から目線な優介、可愛めを狙っているのかなんだかよくわからない吹雪、そしてじっと目線で訴えかけてくる亮を見て、ふー、と柚希は溜息をついた。

「あのさ、お前ら…あー…いや、なんでもない」
「なんだよ、言いたいことがあるなら言えよ」
「藤原の言うとおりだ、柚希」

文句を言おうと口を開きかけて、やめた。途端に飛んでくるブーイング。吹雪はどうやら拗ねてしまっているらしい。

「…じゃあ言うけど」

重く言葉を発し始めた柚希を見つつ、3人はそれぞれの作業を続けた。
その「作業」を見ながらソファにわざと乱暴に座って、柚希はもう1度3人を見た。

「まず優介」
「なに」
「それ、中身見て投げ捨てるのやめて」

先ほどから包みを開けて、ビターとミルクのチョコレートを仕分けてはビターのものを無造作に投げ捨てる作業をしていた優介がむっとしたように顔をあげた。

「俺ビターは食べないの。柚希だって知ってるだろ?」

人の好みも知らずに押し付けてくるんだ、捨てて何が悪いの、と口をとがらせる優介に呆れつつ、柚希は吹雪に目を向けた。彼は包みの山を部屋の隅に追いやったところだった。

「吹雪もあからさまにいらないって態度するのやめて」
「だから、僕は柚希からのチョコレートしかいらないんだって。甘いものキライだしね」

パッと顔をあげた吹雪は、にっこりと笑いながら言い放った。柚希の顔が不機嫌に歪む。

「だったら最初からもらってくるなよ!」
「毎年藤原と亮と競ってるからね」

悪びれもなく言ってのける吹雪に、さすがの柚希もクラクラとした。軽く俯けば、髪の影にその表情を隠される。

「…亮」
「お、俺は藤原が散らかしているゴミを片付けているだけだぞ」

俯いているうえに背を向けている柚希の顔は亮には見えない。しかし、さすがに柚希の言葉に含まれる怒気を察したのだろう、珍しく慌てた口調で亮が先に言う。確かに亮はもらったチョコレートに酷いことをしているわけではない。今の状態でも見た目よくきちんと積まれているし、多分毎日少しずつ食べて完食する気だ。自分で食べない優介と吹雪の分も。だが、今の柚希の前ではそんな亮の生真面目さも関係なかった。

「ああ、片付けしてくれて助かるよ…でも」
「…でも?」
「どうしてこの馬鹿2人をとめてくれなかったのかなあ…?」

マズい、と亮は思った。ゆっくりと振り返った柚希の目が、完全に怒っていた。






「大体、」

ソファに座りなおした柚希が脚を組んだ。目の前には正座をした同級生が3人。

「女の子の気持ちは考えない、もらったチョコは無下にする、私の部屋で馬鹿騒ぎ」

3人はじっと耳を傾けた。

「そんな振る舞いしたあとに私にもチョコレートの請求とはね。君達のその神経には感服だよ。本当いい度胸してるね!」

柚希だってバレンタインのことくらい分かっていた。実は3人に、それぞれ口に合うように手作りもしてあった。でも当の3人がこの態度。女の子達がどんな思いでこの馬鹿たちに贈り物をしたかはわからないが、それを酷く手扱われたと知ればどれだけ傷つくだろう。想像するのは難しいことではない。吹雪と優介だってそこまで馬鹿ではないから、バレないようにするとは思う。本人たちは知らないままでいられるかもしれないが、事実を知ったうえで平然としていられるほど、加えて言うなら自分からのプレゼントを贈れるほど、柚希は図太くないのだった。でも、それ以上に1つ、思うことがある。

「…他の女の子からもらってくるなよ」

冷たく言い放つと、ソファを立って部屋を出て行く。それなりに大きな音を立てて閉まったドアを見ながら、吹雪が口を開いた。

「あちゃー…ちょっとやりすぎたかな? 完全に怒っちゃったね、柚希」

頬をポリポリと掻きながら言う吹雪に続いて、優介も口を開いた。

「なんであいつは素直じゃないんだ。もっと可愛げのある反応したっていいだろ」
「まあ、柚希の性格では言い出しづらいんだろう」

お前たちがあんな態度だったのもきっと勘に触ったんだ、と冷静に分析するのは亮。そこで吹雪がくすっと笑った。

「でも、最後に他の子からもらうなて言ってたじゃないか! なんだかんだ言って、柚希は僕らが大好きなのさ」

吹雪の言葉に、優介も亮も各々笑顔を見せた。

「ほら、じゃあ部屋を片付けなきゃね。柚希を探しに行かなくちゃ!」



だって僕らも君が好き!





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