「あ、いたいた!」

ノックも無しに突如部屋に入ってきた吹雪に、柚希は溜息をついた。

「なんだ」
「もう、ほんとに柚希ってそっけないんだから! もう少し笑ったりしないとダメだよ? 胸キュンポイントマイナス10点」
「用が無いなら帰れ」



「それで本題なんだけどさ」

吹雪用に取り寄せたコーヒーを淹れて席に着いた。ちなみに亮用のコーヒーも優介用のココアも全部取り寄せたものだ。あいつらはいちいち好みがうるさい。返事をせずに目だけで反応する。すすったココアは優介用のものと同じ種類のココアだ。私も優介も甘党なのだが、優介はこのココアにさらに生クリームを入れる。自分も結構な甘党だと思うが、優介はそれを上回る。糖尿病になったりしないか心配だ。

「柚希さ、初めてっていつだった?」
「は?」

吹雪はくすくすと笑ってコーヒーに口をつけた。

「そんな驚くようなこと聞いてないでしょ、セックスの話だよセックス」
「…話す理由がないんだけど」

もう一度カップに口をつける。

「じゃあ質問を変えるよ。どうだった?」

この男、と柚希はカップで見えないのをいいことに歯を食いしばった。吹雪とはそれなりに長い付き合いだ。こういう話も度々してきたが、それが自分の話題となれば話は別。

「お前は取り巻きの女の子にもそんなことを聞くのか? 不躾な奴だな」
「まさか。柚希だけだよ」

少し沈黙が流れる。だんまりを決め込もうという、柚希の判断だった。

「柚希ってばー」

そのうち痺れをきらしたのか、吹雪がソファを立った。そのまま向かいの柚希の隣に腰かける。

「君とこういう話をするのは別に珍しくないでしょ? どうしたの黙っちゃって」

すかさず吹雪と間を開ける。なんていうか、普段から変な奴だが、今日はもっと変である。なんかしつこいしキモい。

「いやさ、僕としては優介と何回かヤってると思ったんだけど」
「吹雪」

何故かじりじりとにじり寄ってくる吹雪の胸板を押し返す。そういう妄想は優介に失礼だからやめておけ、と言って空のカップをテーブルに置いた。

「え、優介じゃないの?」

心底驚いたような顔をして吹雪が体を反らす。

「優介はそんなことしたりしないよ、お前と違って」
「じゃあ亮」
「…亮がそんなことできると思うか?」

吹雪は腕を組んで考えるそぶりをすると、首をすくめてお手上げのポーズを取った。私だって想像出来ない。

「わかった、じゃあここに来る前でしょ」
「お前は私をなんだと…」

中学生で淫行とかお前じゃないんだ、そう言いかけると突然肩を掴まれた。

「おい、なんだ急に」

そのまま俯いた吹雪の顔は見えない。ぎりぎりと肩に徐々に力が加わっていく。地味に痛い。

「吹雪、痛いから離せ」

指が食い込む。痛い痛いちょっと吹雪! 手を引き剥がそうと指をかけた瞬間だった。

「柚希…君、処女だったんだね!」

勢いよく顔を上げた吹雪は、やたらめったらいい笑顔をしていた。


ふざけるのも大概にしなさい
(優しくするからさ!)
(冗談じゃない! 誰がお前なんかと……どこ触ってんだ!)






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