そっと、眠った亮のそばから抜け出して洗面所へと向かう。水道で軽く唇をぬらして鏡を見れば相も変わらずきつい目つきの自分とご対面、機嫌はすこぶる悪い。ベッドに戻ってみれば亮は先刻と同じ体勢で寝ていた。自分が抜け出したままの場所には労わるように抱いていた腕がひとりで転がったまま。なるべく振動を起こさないよう、抜け出す前と同じ位置に戻って亮の顔を眺めた。長い睫毛、高い鼻、きめ細かい肌は白くて、まるで陶器のよう。この顔であの成績とプレイングなのだから、亮はそれはそれはおモテになる。

(…なんだか、みじめだ)

顔もよければ頭もいい、運動神経だって悪いわけではない。人付き合いは不器用だが周りからの信頼も厚く、先生方からの期待を一身に背負う、この学園の帝王。
亮が帝王なら私はただの平民だ、むしろ今現在のポジションから考えれば夜伽役…いや、何もしてないけど。左手をゆるく持ち上げて自分の顔をさわる。荒れ気味の肌、別段高いわけではない鼻、瞳は非常に吊りあがっていて、なんだか狐のようだ。おまけに成績は頑張らなきゃ上位を維持出来ないし、プレイングミスは多発しすぎて先生にも呆れられる。特に特筆できそうなところなんて何もないのだ。ただのいち生徒、なのにこうしてその帝王様と好きあって、一緒に寝るまでの仲になってしまった。
亮のことは好きだけど、愛してるけど、ときどき凄く遠い人のような気がして切なくなる。

「…柚希?」
「え…あ、あぁ…おはよ、う」

物思いに沈んでいて、亮が目を覚ましたことに気づかなかった。亮の指先がそっと私の顔に伸びて、反射的に目をつむる。

「どうした」
「何…が」
「泣いてるぞ」
「ん……っ?」

そっ、とまるでガラスに触るかのような手つきでとじた目尻に指を滑らせる。目をつむったときに零れ落ちたらしいそれが、一拍遅れて頬を伝った。自覚すればあとはもう止まらない。じわじわと溢れてくる涙。見られたくなくて、思わず抱きついた。

「…なんで、亮は」
「…」
「私と、いるの」

困惑したような、そんな空気が伝わってくる。寝巻きに染み込む涙すら遠くてまた泣けた。しがみつく私をあやすように抱きしめて、そっと引き寄せる。丸まるように亮に擦り寄って、親を失くした小動物のように震えた。いつからだろう、こんな風に脆くなったのは。いつからだろう、亮を困らせるようになったのは。

「一緒にいたいから、じゃ駄目なのか」
「理由にならない、」
「好きだからじゃ、駄目なのか」
「信じられない」

陳腐な理由も、根拠のない言葉も信じない。私が私でいられる理由が無いと、亮がそれを見つけない限り、私は私でいられないのだ。私じゃなきゃ駄目だと言って欲しかった。私が唯一無二であるという証明が、言葉が、欲しかった。



ぬらした唇に、涙が滑り込む。





壊死していく、






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