黒い。
てのひらを蛍光灯にかざせば血管が透けた。中には何か液体が通って、俺のたいないを巡っていく。かつて同じベッドで眠っていた柚希はいつからかベッドを這い出るようになり、今や部屋の外の大きな窓から俺のことをじっと見るようになっていた。柚希は今ごろ何を思っているんだろう。俺のことを何だと、思っているんだろう。最初のうちはベッドから出る彼女を引き止めようとして、なんとか傍に置いておこうとした。それはそれはもう死に物狂いで何かをした気がする。もう忘れた。柚希が戻ってこないベッドに一人で横たわりながらただひたすらに自慰をした。やがて飽きたらなくなった俺は自慰をやめて自傷に走った。気がつけば血は血の原型を留めていなかった。どす黒い、汚い色になっていた。そのとき俺は初めて、自分の胎内を駆け巡るそれが血液でないことに気がついた。窓の外から俺を見る柚希が俺を見て微笑んだ。わらっているのに泣きそうな、悲しそうな顔をしていた。俺はまた透けたてのひらに浮かぶ液体を眺める。この胎内にまだ血液が流れていた頃はきっと柚希も俺の傍にいたに違いない。今の俺は人間でもなんでもない。だが、だとしたら俺はなんなのだろうか。人間には戻れるのだろうか、またこの手に血液が通る日が来るんだろうか、また柚希が隣で笑う日が来るんだろうか。そして俺はまた思考の海に沈む。


女が一人、窓の外から侵入してくる。俺のてのひらを取って針を刺して、俺の帽子を取ってその下に針を差した。俺は人間でないから、こうして生きるらしい。だけど今日は少し刺す針の量が幾分か多い。ちくり、ちくりと刺された針の感覚さえ麻痺して、全身の傷跡沿いに刺さった針をそっと動かした指先でなぞった。


(KCN、注射します)



ああ、まる で
病人      





メランコリー
ホリック





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