久しぶりに吹雪から電話がかかってきた。

「…亮が、音信不通」

学生の頃の面影を綺麗に無くしたその男の活躍はそれはもうめざましかった。未だ社会の輪の中に入れずにいる吹雪と、社会人ではあるもののそのシステムの中に完全に取り込まれていない柚希には、亮に一体何があり、どんな心境の変化を起こさせたのかを察するのは難しい。ヘルカイザーとして名をはせ始めた頃から連絡の回数は減り始め、最近ついに音信不通になってしまったという。

「クロノス教諭のところは?」
『駄目みたいだよ。教諭もずっと手紙を書いているみたいなんだけど、ああなってからは一通も返ってきてないらしいんだ』
「そう…」

クロノス教諭も駄目だったのか、と柚希は溜息をついた。亮と絶対的な信頼を築いていたクロノス教諭ですら連絡に滞りがでていたという。それでは自分に連絡が来なかったのも頷ける。いつだって自分は2番目かそれ以下のようなものだった。結局、放っておこうがそうでなかろうが亮は誰にも連絡をしなかったのだ。だとしたら、自分は何も間違いを犯さなかったことになる。間違ってなどいなかったのだ。

『柚希も長いこと連絡待ってたんじゃない? …疲れたりしてないかい? 大丈夫?』
「大丈夫だ。むしろ気が楽になった」
『は? なんで?』
「なんでも。私にだけ連絡が無いとかだったら、逆に病むだろう」
『ああ、そういうことね。最近またテレビ出てこないけど…地上波出て来れなくなったとかそんなんじゃないよね。…死んでるわけじゃないんだ、いくら変わってしまったとは言っても、彼は僕たちの知ってる丸藤亮に変わりないよ。僕は亮を信じてる』
「ああ…そうだな」

吹雪との電話を適当なところで切り上げて、よろめくようにソファにもたれた。自分にだけ連絡が無かったわけじゃないという安堵感で胸が満たされている。確信を持てるまで実に長かった。デスクの上に置かれた卓上カレンダーの日付のひとこまひとこまを赤い油性ペンで塗りつぶす作業はもうしなくていいのだ。それを考えただけでふわふわと浮いて飛んでしまいそうな高揚感に見舞われる。嬉しくてどうにかなってしまいそうだ。嬉しい。私は捨てられたわけじゃなかったのだ!

「やっと亮を信じられる。長かったなあ」

立ち上がって、卓上カレンダーを折りたたむ。そのままデスクの上に放置して、すぐ近くに置いておいた小瓶と引き出しの中のカッターナイフを手に取った。部屋の隅に吊るしたままのどす黒い、亮の匂いのするコートに抱きついた。抱きついたままどこかパリパリとした布地にキスする。それじゃあ、とコートの内側に呟いてリビングをあとにする。風呂に入ろうと思って湯を張っていたけど、予定変更だ。普段なら文句を言うところだけど、今日は特別。予定外に訪れた幸福。なによりの甘美。長かったけどもうすぐ会えるよ、亮!









そういえば眼球ってお湯に浮くんだっけ。













飛び出した恋情は水槽で孵る





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