ストラヴィンスキーが軽やかに流れるホール内で、タキシードに身を包んだ亮は気難しい顔をして壁に凭れていた。目の前で広がる華やかな舞踏会はどうも自分には合わない。天上院はどこかの令嬢に連れられてから姿が見えない。もともとはいい家系の出身だという藤原も、久しぶりに顔馴染みを見つけたのかどこかに行ってしまった。

(…帰りたい)

特待生は入学時にオーナーに連れられて株主総会に出席すると聞いていたが、まさかそれが舞踏会だなどと誰が想像しただろうか。親元から離れて一人暮らしをし、友人とも離れ、生活環境もガラリと変わって一段落したところにこれだ。慣れないから疲れるとかいう次元の問題ではない。それは亮も例外ではなく、疲れが溜まっているのか大きなため息をついては慌てて口元を押さえた。

(特待生と言えば、)

天上院と藤原と自分の3人の他にももう一人いたはずだ。自分たちとは違い、一般試験で特待枠に滑り込んだと聞く。よっぽど筆記試験が優秀だったか、デュエルが強いかのどちらかだ。
楽曲はストラヴィンスキーからモーツァルトに変わっていた。やっと見つけた天上院は向こうの方でステップを踏んでいるし(少しずれている気がする)、藤原も藤原で向こう側のテーブルに居を構えて話し込んでしまっている。舞踏会はまだまだ終わりそうにない。



「ああ、いたいた」

ザワザワとするホール内で、誰かが誰かを見つけた声がする。その声の発信源はわりとすぐ近くで、高いヒールが床をコツコツと叩いて移動する音が聞こえた。

「おい、君のことだよ、丸藤くん」
「……、」

真横で声がした。驚いてそちらを振り返れば、女が一人、鋭い目付きでこちらを見ていた。

「君だろ? 丸藤くんって。」

ほら、とグラスを手渡される。あと2人がわからないんだ、と言って女は笑った。



「どうして俺がわかったんだ?」

まだろくに自己紹介もしていなかっただろう、そういうと、柚希と名乗った特待生最後の一人は口を開いた。

「丸藤くんこういうの慣れてなさそうだから心配だって、クロノス教諭が心配してたから」
「クロノス教諭が?」

手持ち無沙汰にしてる学生を探すなら楽だからね、と続けて、柚希は口の端を吊り上げた。
それから俺たちは少し話をした。
柚希が試験日に遅刻して教諭とデュエルしたこと、使うデッキを間違えたこと、うっかり勝ってしまったこと。特待生に推薦されたこと。

「今ウィジャ盤なんて流行ってないし、勝つのも難しいだろ? …偶然なんだ。特待生なんて柄じゃない」
「それでも君はクロノス教諭に推薦されたんだろう?教諭は君の素質を認めたということだ」
「まさか」

モーツァルトからチャイコフスキーへと移り変わる。グラスの中のオレンジジュースが空になった頃、柚希は俺の腕を引いた。

「どうした」
「…私たちも行かなくちゃ。ここでぼんやりしてるのが見つかったらオーナーに何言われるか」

一応今年のDA代表って名目で来てるんだし。眉間に皺を寄せた柚希をじっと眺めて、そうだな、と呟いた。
また姿が見えなくなった天上院と、話が一段落したのか退屈そうにしている藤原と、柚希。こんな同級生も、なかなか個性的で味がある。

「それなら、」




それなら僕と踊りませんか

(丸藤くんじゃなくて亮でいいぞ)
(そうか、よろしく、亮)







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