校舎裏の芝生に勢いよく倒れ込んだ人影に、私は追い討ちをかけるかのように蹴りを入れた。

「ぐあ、っ」
「誰が横になれなんて言った? …立てよ」

芝生を掴む手を踏みつける。ぐ、とまた低く呻いた男を冷たく見下ろしながら、私は口許を歪めた。丸藤亮。それがこの男の名前。カイザーなんて御大層な二つ名を担いだこの男は、常人にあるまじきマゾヒストだった。

「はあ…っ、は、柚希…」
「…気持ち悪い。私の名前を呼ぶな」

気色悪い、と呟きながら足元の亮を蹴飛ばす。私に散々蹴りとばされた亮の白い制服は土にまみれて汚ならしかった。私がつけた汚れだということは間違いない。そう思えばこの土汚れでさえもいとおしいような気がした。


「…亮は素直でかわいいね」

しゃがみこんで、顔を横を向けている亮の顎を掬う。唐突に放たれた一言に、亮はゆるゆると目蓋をあけた。

「…柚希、俺、は、」
「私のことが好きなんだろう、知ってる」

亮は素直で、一途で、酷く真面目だ。だから私が亮の好意を利用してこうして好き放題しても何も言わないし怒らない。マゾヒストというのを差し引いても、私にとっては都合の良すぎる男。ただそれだけ。

「柚希…」
「…、亮」

彼の名前を紡ぐ私の声が震えてるなんて、認めたくなかった。





愛なんて知らない





「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -