「ねえ、ピアスってどう思う?」

不意に口を開いた臨也が淡々とした口調でひとりごとかのように呟く。疑問系なのでおそらく私に問うているのだろうが、視線は依然としてパソコンのディスプレイに繋がれたままだ。

「どうって…好きにあけたらいいんじゃない。趣味でしょ」
「悠理はあけないの?」
「うーん…あけろと言われたらあけるかもしれないけど、そこまでの興味はないかな」

ふーん、そう言ってふかふかの社長イスに体重を預ける臨也の視線がディスプレイから外れた。

「俺もピアスなんてどうでもいいんだけどさ、興味はある。だって貫通してるんだよ? しかも好き好んで貫通させてる! 不思議だなー」
「まあ、わざわざ穴とは物好きだよねえ」
「そこに鉄なり樹脂なりが貫通してるんだよ? 起源は紀元前に遡るとはいえ、人間て面白いこと考えるなあ」
「魔よけだっけ。そりゃ神だのなんだのに対抗しようと思うならそのくらいのことはして発想としてはありえたかもしれないね。犠牲というか」
「悠理にしてはまともなこと言うね。あけてみてよ」
「は?」
「あけてあげるからさ」
「いや断るよ」

突如として戯言をのたまう臨也を流して、テレビのリモコンを弄ぶ。なんでこんなにボタンが多いんだ。編集と消去の選択間違いとか頻繁に起きそうなものだが。ヒューマンエラーの宝庫だ。

「君さっき、あけろと言われればあけるかもって言ったじゃない」
「そりゃ場合によっちゃあけざるを得ないときだってあるだろうね。どっかのヤクザ団体がピアス必須とかだったらね」
「じゃあ、あけざるを得ない状況にしてあげるよ、ほら」
「ちょっと、こら」

ふかふかの社長イスから軽やかに降りて、リモコンをテーブル上に置いた私に詰め寄る。無駄に大きな革張りのソファが私の退路を絶って立ちはだかる。これだけ近距離になってしまえばあとは男女の力の差ということで、抵抗むなしくソファを背にして追い詰められる。半ば覆い被さるようにして私を追い詰める臨也の手には小さなピアッサー。どこから出した。

「俺はね、思うんだよ」
「…」
「ものが貫通するだけの穴ってのは、塞がっても傷跡は残るよね。ピアスホールだって同じようなもんだよ」
「まあ、傷だからね。しかも結構大きいほうのね」
「だからこうやって、ある種の支配欲を持って恋人にピアスをあけさせる人間もいるんじゃないかと」
「勘弁してよ」
「おっと。勘弁はこっちのセリフだよ。君に気があるなんて思われたくないね。まあ、試してみたいというか再現したい気持ちはあるからこうしてるんだけど」
「何をだよ」
「恋人に対し一生物の傷をつけるっていう行為かな。ナイフでやられるよりはいいと思うんだけど」
「いや人選間違えてるよ!」

くだらない恋人ごっこの真似事に付き合わされるこっちの身にもなってほしい。しかもちょっと病んでる感じのカップル。やだよそんなの。ピアッサーという人体の一部を貫通させるだけの力を持ったそれは明らかな凶器だ。少なくとも現時点で私にとっての凶器だ。凶器を前に暴れるほど馬鹿にはなれず、にやにやと笑みを浮かべる臨也が左耳にそれをセットするのを黙って許した。臨也が軽くレバーを引く。バチン、針が耳を貫く鈍い音と軽い衝撃が左耳から伝わる。あまりにあっけないそれに臨也はきょとんとした顔をして、こんなもんかと呟いた。

「思ったより簡単にあくんだね。驚いた。気分はどう?」
「楽しくはないかな」
「またまたあ」

臨也は何事もなかったかのようにあっけらかんとした口調で軽口を叩く。私の輪郭をなぞり、ピアスが装着された左耳に触れる臨也の手からどこか切なげな、愛のような、不器用な何かを感じて、まあいいかと思ってしまう私も大概である。






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