折原臨也永遠の21歳、女の子の携帯を壊したことは数知れず、そして今ここにまたその餌食になろうとしている可哀想な携帯電話が一台。何を隠そう、悠理の私物である。先刻帰宅した彼女だが、どうやら忘れていったらしい。気づいてテーブルの上から拾い上げ、何気なく開いて画面を見た瞬間、臨也の顔面が苦渋に歪んだのがつい数分前。ミシミシと異音を奏でるその画面には――、
「あれ、携帯忘れ、た」
池袋駅に着き、特に意味もなく操作しようとして悠理は自分が臨也の家に携帯を忘れたらしいことに気がついた。忘れたと言うことは、臨也の手中にあるも同然なことに気がついて青ざめる。
「…やばい」
抜ける寸前だった改札をUターン。向かうは新宿。
♂♀
「っ臨也!」
「やあ、遅かったね。携帯忘れてるよ」
「……知ってる」
テーブルの上に置かれた携帯電話には見たところなんの変化もない。ノータッチ、か?おそるおそる手を伸ばして、この動揺が臨也に伝わらないように、違和感のないように携帯を手に取る。ぱか、と静かに画面を開き、待ち受けが変わってないことに安堵した。
(…これは見られたら怒られる)
先日公園で撮った、静雄と犬のツーショット。人の家のゴールデン・レトリバーだが、じゃれつく大型犬と静雄の組み合わせが本当に…本人に言ったら殴られそうだが、本当に可愛かったのだ。つい写真を取って待受にしてしまったとしても、誰にも咎められない自信がある。…この男を覗いて。
「あー、じゃあ帰るわ」
「うん、気を付けて。悪いね届けに行ったりできなくて」
「いや、行き違いになると困るし逆に助かったよ」
それじゃ、と踵を返して玄関へ向かう。ブーツを履いたところで、リビングから名前を呼ばれた。
「なに」
「データフォルダ、しばらく整理してなかったみたいだから整理しといたよ」
「…………えっ」
サッ。血の気が引く感覚がした。慌ててウエストポーチから携帯を出してデータフォルダを開いた。
「…っ、な、ぁ、」
「日が暮れてきたから早く帰りなー、泊まるならそれでもいいけど」
「〜〜〜〜ッ、信じらんない、変態、死ねお前ほんと! 人でなし! 誰が泊まるか! もう絶対泊まんないし関わんな! 死ね!」
ガシャン、と大きな音がしてドアが閉まる。くっくっ、と喉を鳴らしながら臨也は目の前にあるパソコンのディスプレイを眺めた。「悠理」と名前の入ったフォルダの中には、日常写真の他に「本人が嫌がるような写真」も多々入っている。
「…どうせシズちゃんと関わるなって言ったって無理なんだし」
このくらいの嫌がらせは許されるでしょ、そう言って臨也はパソコンの電源を落とした。
上手方向に性悪
嫌がる写真=折原さんがヒロインにセクハラをはたらいたときの写真、とか。そういうのがデータフォルダの中に転送されてたみたいな。