ゴールデンウィークも終わりが見えてきたその日。休日を歓迎するかのように池袋の街は呼吸し、今日もまた蠢く。

「あぁ、いたいた。探したよ、悠理」
「臨也?」

池袋を歩く悠理の前に現れたのは珍しくコートを着ない、薄着の臨也だった。確かに今日夕方から家に行く用事があったが、それにしたって池袋でこんな昼間から出くわすのは少し頂けない。静雄的な意味で。

「探したって…用事? メールくれればいいのに」
「別にこれといってはないけどさ。まあいいじゃない。俺が会いたかったの」
「ふーん」

肩に手を回してくる臨也に好きなようにさせながら、周囲を見渡す。幸いにも静雄はいないようだ。

「シズちゃんなら、きっと今ごろあっちのほうで取り立てしてるさ。怖い怖い」

あっち、と指を差した方向には、静雄がよく上司と向かっていく路地がある。臨也が言うならきっとそうなんだろう。

「悠理は何してたの?」
「え? あぁ…まあ…臨也の誕生日プレゼントでも探しに…行こうかなって…」
「言いながら恥ずかしがらないでよ」

そう、今日は臨也の誕生日なのだ。いつも薄ら笑いを浮かべて、人を騙して操って、不敵に笑うこの情報屋の、誕生日。人を馬鹿にしたようなものではない、純粋な苦笑いを一瞬だけこぼして、またいつもの笑みに戻る。こんなふうに穏やかにする臨也と一緒に歩くなんて、あの頃は想像してすらなかったのに。

「臨也がこっちまで来ちゃったとなると…買い物は新宿でしたほうがいいかな」
「君はとことんシズちゃんを気にするね。好きなの?」
「…あんたらの喧嘩に巻き込まれたくないだけだっつの」

わざわざ静雄の仕事の時間と場所を把握してまで私を探しに来たのは、今日が臨也の誕生日だから。慣れた動作で肩に回された手が私をそっと引き寄せるのも、あと5分後には私の右手が臨也の左手に触れているのも、その手がいつもより優しくてどこか切ないのも、今日が臨也の誕生日だからなのだ。

「まあどうせ臨也んち行く予定だったし、新宿行っちゃおうよ」
「他のとこ寄らなくて大丈夫?」
「臨也が上野とかアキバに用事があるなら寄るけど」
「ないよ」

二人して身を翻して、駅に向かって歩く。目立つコートを着ない臨也の隣で雑踏に紛れるようにして歩けば、あっという間に池袋の景色に溶けてしまう。

「…臨也」
「ん?」
「誕生日、おめでとう」
「……うん」

甘え方の下手なこの男のこころを少しでもあたためてやれるなら。
それだけで満足してしまう私も大概かもしれない。



触れた先で微笑んで

折原さんお誕生日おめでとう!






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