「やー、ここが君の家か。雑然としてるね」
「な…にしてるんですか! 不法侵入ですよ!」

オリハラさんはごく普通に入ってきてさらっと感想を述べた。衝撃的すぎる。ついでに横暴だ。

「仕事は!」
「あがってきたよ。せっかく君が来たのに君ったら逃げちゃうんだもん、困ったよ」
「困るのはこっちです!」
「またまたぁ」

くすくす、と笑って、一歩後ずさる私の歩幅より広い歩幅で間合いを詰める。いつ見ても綺麗な顔したオリハラさんはそのまま私の頭を優しく撫でて、目線を合わせた。瞬間、困ったように眉が垂れる。

「まあ確かに急だったかもしれないし、卑怯な手段だったこともわかってる。別に今すぐ取って食おうってわけじゃ…ちょっと、そんな顔しないでよ。俺は本気だから、それはわかってほしいな」

何も言えずに俯いている私に微笑みかけて、オリハラさんは少し離れた。

「もちろん、君が嫌だっていえば潔く身を引く所存だよ。あとは君が決めればいい…あ、美容室はいつでも来てね。安くするよ」

じゃあ急にごめんね、そう言って身を翻したオリハラさんがどことなく寂しそうに、余裕に見せていただけの普通の男の人に見えたのはきっと、気のせいじゃない。

「あ、あの!」
「え?」
「な、名前…、あの、名刺とか無いんですか? その、次回用に!」
「え、ああ、」

腰についたままのシザーケース。それは仕事あがりに外すのも忘れてうちに来た印なんじゃないだろうか。どこかぎこちない手つきで渡された、目の前に差し出されたその名刺を手にとる。目を通したところで、折原さんがまさにおずおずといった感じで口を開く。

「折原臨也。折り紙の折に原っぱの原、それから臨むって字に也でいざや。変な名前でしょ」

視線を合わせれば、折原さんは照れくさそうに笑った。





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