「…はあ」
ひどい一日だった。軽い気持ちで行った美容院で起きた出来事はあまりに衝撃的すぎて、今でも少し意味がわからない。私を好きだとのたまうオリハラさんをどうにか引き剥がして帰宅するのに、異様な労力がいった。
「…夕飯、どうしようかな」
まだ日は高いが、少しずつ、確実に傾いてきた太陽を見ながらそんな非日常を頭の中からデリート。たまの休みだと言うのに、どうしてか疲れた気がした。
「まあ、これでいいかな」
適当に茹でたパスタとクリームソースを用意する。賞味期限の近かった生クリームを消化できた喜びに身を任せつつ、夕飯と言うにはまだ早い時間なので愛用の一人がけソファに身を沈めた。
ピンポーン、
ベルが鳴るが、今日誰かが来る予定はない。どうせセールスだろうと推測して居留守を決め込む。次の瞬間、ガチャンと聞き慣れた音がした。鍵が回った、音。
「…えっ」
玄関の方から声が聞こえた。私を呼ぶ声、非常に聞き覚えのあるこの声は足音と共にこの部屋へと近づいてくる。
「ヘアサロン・オリハラでーす! 出張サービスに伺いましたー!」
呼んでねーよ。