「あ…え? すいません、もう一回」

オリハラさんは浮かべた笑みを崩さずに、再度同じ言葉を吐き出す。優待券を送ったのは、私だけだと。

「いやー、本当にまいったよ。君ったら何回送ってもスルーなんだもの。それこそ本気で家まで行って連れてこようかと思ったくらい」
「…、…どう、して」

呆然とする。私にだけ、ということはここのスタッフはみんな、私が来るのを待っていたのだ。ただ一人、私だけを。

「どうして、ね。教えてもいいけど…」
「…けど?」
「当ててみてよ、大体でいいから」
「はぁ、?」

正直知ったこっちゃないと思った。変なことを言って笑われるのも癪だし。それでもオリハラさんはじっと見つめてきたままで、居心地の悪さを感じた私は渋々口を開く。

「な…何か恨みがあった、とか?」
「恨みがあったら優遇してない。次」
「手軽にぼったくれそうだから」
「ぼったくるのに優遇いらないしもっと頭軽そうなの選ぶよ、次」
「…え、っと…?」
「ちょっと、もう終わり?」
「す、すいません」

本当はもうひとつあった。というか、人間個人に呼び出しをかける、という意味合いではもう他に思い浮かばない。
でもそれを口に出すのは憚られた。

「本当はもう1つあるでしょ?」
「そんなことは、」
「見ず知らずの人を呼び出す理由なんてあんまりないよね。そしてその数少ない理由を連想出来ないほど、君は馬鹿じゃないと思うんだけど」
「そ、あ、えっと…!」
「…まあいいや。その反応だとわかってはいるのかな」
「…っちょっと待ってください!」
「正解は、」

浅く腰かけたローチェアで組んだ脚を解いて、前傾姿勢になる。幾分か近くなった距離で、じっと目の奥まで、脳の底まで見透かすような視線で射ぬいてオリハラさんは軽く言い放った。


「俺が君を好きだから」





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