できたよ、とオリハラさんが私の肩を叩いた。飲んでいた紅茶をサイドテーブルに置けば椅子が回転して、オリハラさんと向かい合うようになる。私に大きめの鏡を渡して、後ろの鏡台と照らし合わせた。
「どうかな? 随分軽くなった?」
「はい、なかなかいい感じです。ありがとうございます」
「ふふ、これが仕事だからね」
優しく笑うオリハラさんを見ていると先ほどまでの疑念が払拭されていくような気がした。さらり、と自分が手がけた襟足を掬い上げるオリハラさんはやっぱり綺麗でつい見とれてしまう。
「…さっきから思ってたんですけど」
「ん?」
「優待券の権力、強くないですかね」
「…ふふ、そうかな?」
にこにこと笑う折原さんは毛先から撫で上げるように私の輪郭をなぞり、頭を撫でた。
「君の考えてることを当ててあげるよ」
「え、」
「カウンターの人もオーナーもやたら待遇を良くしてくれる。オーナー直々にシャンプーもカットもしてくれるし妙な個室ゾーンに通されるし、ましてや初めて来た、常連でもない自分に紅茶まで出してくれる。いくら優待券と言ってもここまでしてくれるものだろうか、もしかしたら本当は騙されてて、ぼったくられるんじゃないか…こんなとこかな」
「そんなこと、!」
「図星でしょ?」
それに、と続けたオリハラさんの言葉に、私は赤面した。
「優待券持ちの人間にはみんな同じことをしてるんだなあと思って、俺の気遣いも優しさも笑顔も、営業用であることに失恋したような感情を抱いている。…違う?」
にい、とまるで意地悪げな笑みを浮かべて、オリハラさんは私の頬に両手で触れた。
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