「お、みんなー!久し振り。学校帰り?」


街角で、見慣れた顔触れを発見。少し近づいて声をかければ、少年少女たちの視線が自分を捉えた。

「悠理さん!お久しぶりです」
「や、帝人くん。杏里ちゃんと紀田くんも」
「久し振りっすね、悠理さん。杏里、少し相談してみた方がいいんじゃないのか」
「え、」

話を振られた杏里が狼狽える。少し顔色がよくない。何かあったのだろう。学校帰りに買い物をして、今から解散というところだったらしい。相談というのはどうも杏里と正臣にしか通じない話題らしく、帝人もいまいち話が読めないといった顔をしていた。






「教師のセクハラねえ…ドラマみたいな話だね、って笑い飛ばせないのがなんとも」
「あまり、意識したことは無かったんですけど…皆が心配してくれてて」
「用心するに越したことはないね。紀田くん、こういうことには詳しそうだし。噂で片付けられそうな話じゃない。関係があるとかないとかってのは」

帝人と正臣と別れ、一人になるという杏里を家まで送ろうと同行した帰路で、有る程度の話を聞いた。教師のセクハラ、学校で飛び交う噂、正臣が言及した、信憑性のある過去の経歴。それから、杏里自身が帝人や正臣に抱く思い。

「そう、ですかね…でも、先生が本当にそんな、…嫌われがちな先生ですし」
「杏里ちゃんが思うほど、大人って綺麗じゃないんだよ。用心するべきだ」

強めの口調で言えば、気落ちしたように杏里が俯いた。横道に猫を見つけ、話題を変えようとその路地に入り込む。杏里がそれを背後から見つめる形になった。にゃーにゃーと何かいう猫と、それに相槌を打つ悠理。もうだいぶ慣れた光景とはいえ、彼女が動物とこうして会話しているのには未だに不思議な心持ちがするのだった。
刹那――背中に軽い衝撃が走り、杏里はバランスを崩して地面に転んでしまった。突然の物音に、何事かと悠理が振り返る。地面に膝を着く杏里の背後に、何人かの脚が見える。ローファーが3足。恐らく、彼女たちからは路地の中の悠理は見えていないのだろう。悠理は猫に帰るようそっと促すと、様子を伺った。どうやら激しく難癖をつけられているようだった。杏里が身体を起こし、立ち上がろうとしたところで、彼女たちが杏里を後ろに蹴り倒した。

「ったくよー。張間の次は竜ヶ峰と紀田にコビ売って、次は那須島かよ?」
「何人に体売れば気が済むんだよこの援交女」
「誰かに寄生しなきゃ生きていけないくせしてさー」

暴言が、杏里を侵食しているように見えた。出て行かない理由にはならない。悠理は静かに立ち上がると、路地から姿を表す。突然現れた女に、女子高生たちが怯んだ。

「こういうのひっさしぶりに見たよ。どこにでもいるんだね、群れて、自分の気に入らないやつを排斥しようとするやつ」
「な、なんだよてめえ! どっから出やがった!」
「白血球ごっこもいいけど、相手がほんとに悪い奴なのか、ちゃーんと見なきゃダメだと思うなあ?」

そっと杏里を助け起こして、再度目の前の相手を睨む。きゃんきゃんと喚く彼女たちを一瞥して、背後の杏里に声をかけた。


「大丈夫? 怪我してない?」
「ありがとう、ございます。大丈夫です……あれ、?」
「え?」

杏里が、面食らったように声をあげた。それに釣られるようにして、悠理も前を向く。少女たちの背後に、何者かが蠢いた。顔や服装はよく見えない。ただ、不気味に光るふたつの赤い何かが見える。それが目だと気づく前に、悠理の脳内で警報が鳴った。何か良くないものが、目の前にいる―――!

「杏里ちゃん、逃げるよ!」
「え? 、っうわ」

杏里の手を引いて、出来るだけ早く走る。抱えて飛ぶほどの腕力はない。思いのほか走るのが早い杏里を連れて、悠理は逃げた。背後に、濃い鉄の匂いを感じながら。





憂鬱の匂いと共に



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