若い子と遊ぶのはいい。自分も若くなったような気がする。
そうぼんやりと思考して、自分だってまだ若いのだと思い直すが、学生とそうでない人種ではやはり大きな壁がある。例えば同じ20歳でも、社会人と大学生では大きな隔たりがあるに違いない。
高校生諸君はまだ行くところがあると言って、先程別れたばかりだ。日が暮れ始めるが、一向に人が減る気配はない。寧ろ、仕事終わりのサラリーマンやOLで増え始めているくらいだ。駅前、店の前、交差点。建物のエントランス。誰かが誰かを探し、見つけては笑い合って、そしてどこかへ出かけていく。自分と帝人たちも、そう見えていたんだろうか。

「はーあ、なんかやんなっちゃうな」

喧騒と、人の笑顔。別にそれらに気圧されたわけではない。越してきて日の浅い自分の人付き合いの狭さとか、交友関係の狭さとか、別にそういったものに悲しくなったわけではない。そんな些細なもので情緒を乱すほど子供ではない。しかし、誰かと一緒にいたあとはどうしてもセンチメンタルな気分になりがちなものである。
悠理は軽く溜息をつき、人通りの少ない路地に入っては軽く地面を蹴った。建物の出窓に飛び乗って、どこへ行こうかと模索。公園に行って、木登りするのもいいかもしれない。そうは思ってみたものの、出向くのもなんとなく億劫で座り込んでしまった。ビル風に揺られた髪が頬をくすぐる。2本程向こうの通りから聞こえてくる、車のエンジン音や人の声が耳に馴染んで、段々と眠くなった。




「…っと、ちょっと。何してんの。起きなよ」
「ん…ぅ、」

とんとん、と肩を叩かれて、意識が覚醒する。眠ってしまっていたらしい。すっかり陽も傾いて、だいぶ薄暗くなっている。
相も変わらず叩かれる肩が煩わしくて、一体誰なのかと目を擦った。薄暗いせいで、気付かなかった。暗がりに、黒いコート。ベージュがかったフェイクファーと白い肌だけがぼうっと浮かんで、なんだか幽霊みたいだ。幽霊みたいだ、なんて、幽霊とどっちがマシなのかは未だによくわからないけど。

「……!!?」

それが誰だったのか、名前を思い出す前に脳が覚醒する。跳ね起きて、再度肩を叩こうとする手を躱して横に飛ぶ。飛んだのが間違いだった。ここは出窓の上だっ、た…!

「危なっ、!」

体が空中に飛び出す寸前で、コートから伸びた細い腕が私の体を引っ張った。案外力のあるその細腕に引き寄せられ、私はそのコートにダイブ。顔面をぶつけて今度こそ目が覚めた。

「…あのさ、ほんとに何してんの。寝こけた挙句寝ぼけて飛び降りとか、バカも行き過ぎると面白くもなんともないんだけど」
「…うるさい。お前こそなんでこんなところにいるの」

小さくお礼を言って、私に触れる指先と腕を引き剥がしてから身体を離す。薄っぺらい胸板にぶつけた鼻がまだ傷んだ。私を起こし、ついでに助けて? くれたその人は、あろうことか折原臨也だった。まあ、出窓の上にいる人間に声をかけてくる人間のなんて、よく考えたらそういるものではない。

「俺はたまたま池袋来てただけ。買い物とかもあったし」
「静雄がいるっつーのに、よく来るね。本当はうっかり殺されたいだけだったりしてね」
「冗談。俺だって買い物くらいあるし、都民なんで池袋くらい来ます。一応シズちゃんのいなそうなところ選んでうろついてたら、見覚えある間抜け顔がとんでもないところで寝てたもんで」
「そりゃ申し訳なかったですね」

今度こそ狙いを定めて、地面に向かって飛び降りる。勿論大した高さではない。着地の瞬間受け身を取って、綺麗に転がって衝撃を和らげた。同じようなタイミングで折原も降りてきた。

「悠理、夕飯食べた?」
「…まだだけど。なんで」
「俺も夕飯まだなんだよね。何にしようか考えてたんだけど、よかったら一緒にどう?」
「なんで私がお前なんかと夕飯を食べなきゃならないのか、理由を述べてほしいとこだよ」

といいつつも確かに空腹感はあったし、憂鬱な気持ちが残っていないと言えば嘘になった。話を聞いているのかいないのか、銀座あたりで何か食べようと言い出して、結局それに乗ることになったのだった。




指先の感覚はまだ



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