まだ太陽が真上に昇っている頃。
悠理は今日もまた池袋の通りを、人の流れに乗りながら歩む。祝日のため、普段より割り増しで人口密度が高い。体感人口は倍だ。
ハンズの前を通る。時折かかるナンパの声を聞き流しながら、先日ここで起きた出来事を思い出す。

「集会」。

ただの集会ではない、「ダラーズ」の集会だ。
いまいち全貌の見えない組織ではあるが、日付も変わろうかという時間帯ですらあれだけの人間が集まった。もし太陽が高いうちに同じことをしようとすれば、主婦や学生も含めた人間が集まり、通りが爆発するに違いない。
人数の多さは強大さへと繋がる。ただそれだけだが、ダラーズという組織の影響力が垣間見えた。


そしてその大組織の頂点は――――












「…あれ、悠理さん?」
「帝人? どうしたんだよ…まさか、かわいこちゃん発見!?」
「正臣じゃないんだからそんな風に女の人を見たりしないよ…」
「お知り合い、ですか?」
「うん、まあ…知り合い、なのかなぁ」

休日を謳歌する。その行為は、高校生という年齢の少年少女たちにはそれほど難しいことではない。
人ごみの中に、見覚えのある後姿を見た。自分よりほんの少し年上の、謎の人。
首なしライダーや新宿の情報屋、そして自分とも、僅かな時間で接点を持った、所謂「新参者」。尤も、新参者、という括りでは自身ですらもそれに含まれるのかもしれない。そんな人が、やけに目立つ、桃色の髪を揺らして歩いていた。
先日の集会以降、連絡先もわからず、平日は学校だし休日はこの人ごみだし、悠理とはすっかり疎遠になっていた。疎遠、というほど日も経ってはいないのだが。
会ったところで会話するような話題もなければ、連絡先を知っていたところで連絡するようなこともない。しかし、「非日常」という日常には彼女の存在もいずれ必要になる確信が帝人にはあった。

「んー、ごめん! ちょっと行ってくる!」
「ちょ、帝人!? 待てよ、俺も行くって! この紀田正臣を前にして抜け駆けなど出来ると思うなッ!」
「正臣うるさい」

人ごみをかきわけ、その人の背を追って。
少年たちは走る。無邪気に笑いながら。





驚いた。後ろが騒がしいと思って振り向けば、そこにはタイムリーな御人が。「集会」を開いた、ダラーズの管理者。ボス、と言ったほうが正しいか。竜ヶ峰帝人が、そこにいた。人ごみをかきわけて追ってきたのか、人に揉まれた感が拭えない様相の帝人くんとそのお友達2人にはやや面食らったが、なかなかノリのいい子たちだった。帝人くんともしばらくぶりだったのでお茶でも、と思い、駅前の喫茶店に来た。混雑した店内と、駆け回る従業員。運ばれてこないパフェ。パーソナルスペースは交錯。悪くない。

「なあ、帝人よお。お前いつのまにこんなノリのいい姉ちゃん引っ掛けてきたんだよ? 隅に置けない奴だな、このっ、このう!」
「引っ掛けてって…正臣と一緒にしないでよ」

そんなやりとりをしながら、確かに妙な関係だなあと思う。風真悠理は確かに自分の知り合いだが、出会った経緯を誰かに伝えようとしたところで一口に説明するのはなかなかに難しいことだった。
セルティ―――池袋の都市伝説、首なしライダーについては避けて通れない話題だし、折原臨也についても触れることになる。正臣に臨也の話は、あまり懸命な判断ではない。あの日、はじめて折原臨也に会ったときの正臣の異常さを帝人は忘れていなかった。

一方の、折原臨也と風真悠理。
正直、帝人にもよくわからない関係だった。帝人が悠理と出会ったとき、2人は既知の仲だったし。悠理は臨也を警戒していると言っていたし、越してから日の浅い悠理の人脈の狭さと、独自の情報網から考慮するに諮りかねている部分もあるだろう。帝人にとって臨也は非日常を運んでくれるキーパーソンのようなものだが、正臣から見た臨也はおそらくそうではない。



「帝人? みかどー?」
「え? ああ、何? 聞いてなかった」
「ガッデム! なんてことだ! ついに帝人まで俺を…なんということだ!」
「紀田くん、パフェきましたよ」
「えっ? おおー! ワンダフル! なんて可愛らしいパフェなんだ…ほら杏里、ここに乗ってる星型のクッキー…まるで君のようにまぶしく輝いているよ…」
「正臣うるさい」
「正臣くんうるさい」
「なッ!? 悠理さんまで!?」

悠理が帝人にとってどう転ぶか、臨也にとってどう転ぶのか。杏里と談笑している悠理を見て、好奇心がざわりと胸を焼いた。





ホイップ添えの歓談、雨の降る前に



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -