「ドレークさーん、あーそびーましょー」
「…誰か手の空いてるヤツはいないのか?」
「声かけて10秒たらずで厄介払いしようとするのやめてくれませんか、すごくつらいです」



船長室に押しかけてきたリユはうううーと唸った。握りしめたワンピースはその握力のせいかシワになってよれている。

それを見たドレークは呆れたように息を吐くと、仕方なしに嫌々ともしょうがないなあと世話を焼くようにとも取れる目でリユに近寄って固いグーの甲をとん、と軽く叩いた。
突然のことに驚いたように力の抜けたその瞬間を見計らって、そのきつく結ばれた手を解す。



「…ずるい」
「ん?」



リユの手をグーからパーに変えたついでに両手を握ってくれたドレークの顔を見れなくなって、目をそらした。
かまってくれるときと、かまってくれないときの差が大きい上に急だから、なかなか心の準備が間に合わなくて肺が辛い思いをする。



「…ドレークさん、遊びましょ」
「持ちかけてきたからにはリユが遊びのアイデアを出すように」
「……じゃあ恐竜になって。背中にのせて」
「却下だ」
「なんでですかー。昔はいっぱいしてくれたのに」



繋がったままの両手をぶらぶらと揺らす。

リユの呟いた「昔」を思い出すように、マスクの向こうの目が細められた。


「お前と出会ってもう何年だ?」
「さあ? 恐竜に喜ぶくらい、ずいぶん小さいときからな気はする」
「女の子らしくなかったな」
「他のどの海兵さんよりも優しかったドレークさんが元だもの」



くすくす笑うリユは、もう昔ほど子どもの顔をしていなかった。海兵が少将になり、少将が海賊になるのを、そう遠くない場所から見守ってきた1人でもある。
気づいてみると不思議なもので、いつの間に、という驚きが先にたった。いつの間に、そんなに時を重ねていたのか。


――ふと、ずっとゆらゆらと揺れていた手が止まった。なにかをじっと考え込むように繋がれた手を見つめて、何を思ったのかリユは左手でドレークの両手にまとめて触れると、自由になった右手でドレークの口元に触れた。

ドレークが瞠目すると、子どもじゃなくなったリユはぽつりと呟いた。


「恐竜になったら、ここは大きなツメになって、ここにはキバがはえる」
「…ああ、そうだな」
「誰かを傷つけるものになる」
「そうだな」
「…だけどねドレークさん。私、知ってるの」



『ドレークさんは誰かを傷つけるためじゃなくて、誰かを守るために恐竜になるの。そういうところ、いつまでも変わらないのね』


――結局言えそうになくて、喉まででかかっていた言葉を呼吸をするために肺の向こうへ押しやった。空気に消えた言葉を優しいことに辛抱強く待ってくれるドレークに申し訳なくて、リユは額を彼の額にこつんと合わせる。自然にすっと目が閉じられた。

彼の苦悩を汲んでみせたかのようなませたことを言えるほどは、リユは大人じゃないのだった。それがすごく歯痒くてしょうがない。
だけど海兵の頃から彼を見てきたからこそ、安い言葉で彼のその繊細ななにかを踏みにじりたくもないのだった。



たくさんのぐちゃぐちゃな感情をきれいに消し去るように息をついて、リユはもう一度「恐竜になって」とせがんだ。






∴何もかも、






以前コメントでドレークさんをいただいたので。ドレークさんの年齢どストライクです(


2013.10.24