わたしだっておんなのこだから、例えば誰もが羨む王子様みたいな、みんなの視線を独り占めしまうような素敵な人の考え事とか無条件に捧げられる愛情とかを一身に独り占めしたいなあなんて、バカみたいなことを結構おおまじめに夢見ちゃったりするのです。

ただ独占欲が強いのか、はたまた幼児のような単純かつ根本的な勘違いをしているのか。

どっちだっていいけれど。だってそんな、ずっとわたしだけを見ててくれてずっとわたしのことだけを考えてくれる人なんて、この広い世界でもそうそういるもんじゃない。


「つまり、あなたもわたしの求める人ではないってことですよ、サンジくん」
「どうして? おれはリユちゃんのことだけを見てるし、リユちゃんのことだけを考えてるのに」
「目の前にわたし以外のレディがいないときだけね」



ほとほと呆れながら、いつもと一字一句違わない反論を投げやりに返す。サンジくんもいつものように煙草をふかして悪びれることなく「そうだな」と一言。

その妙に澄ました顔は年上の余裕かそれとも演技なのか。わからなくて、胡散臭くて、それでいて、…ちょっぴり、ほんのちょっぴり惹かれそうになる。大丈夫、惹かれそうになるだけ。結果が残らなければなかったことにしたって支障はないことをなんとなく感じていた。惹かれたりなんか、ちっともしてない。大丈夫。

なにが大丈夫かなんて知らないけど。とりあえず言っとけばなんとかなるんじゃないかなんて小心者の醜い他力本願で、大丈夫だと重ねに重ねた。ぎゅうぎゅうに圧縮されてしまった「大丈夫」は、いつかなにかに姿を変えるのだろうか。


「わたしが求めてるのは王子様で、誰にでも甘く接する移り気な騎士じゃないの」
「従順に想ってくれるだけのぬるま湯の王子なんかよりはよっぽどいいと思うが」
「…もうやめてよ。こんな、くりかえすだけの流れなんて、なんにも変わんないのに」
「そうかい?なんにも変わらないじゃなくて、リユちゃんのは『なんにも変えたくない』、だろ?」



抗うようにキッと睨んだ。紫煙が目にしみる。…隅々まで見透かしたような声が、目が、いやだった。

人のテリトリーにまでズカズカ入り込んでくる図々しさ。本当はそんなことしなくても他に懐柔する手段があるくせに、他のレディには真綿のようにやわらかに接するくせに、わたしにはそんな必要もないとばかりに土足で踏み込んでくる。

飾らないままを受け入れろと言われているようで。


「…そんなの、不公平」


どちらかが受け入れるには、どちらかが折れるしかない2人なのに。それをお互いよくわかっているのに。

果てしない堂々巡り。もういいと言っているのにやめない。ああもう認めたっていい、なんにも変えたくない。変えられそうになってるのをよくわかってて線を引く。すでに負けを認めているようなものなのに、大丈夫の殻にこもって。


第3者の王子様はまだこない。






∴リリックがきこえない






サンジが幅広く受け入れるなら頑として1人しか認めない女の子は?と書いたもののどうしてこうなった。


2013.12.07