あおぞらには太陽がさんさんと輝き、園内にはこども達の明るい声がひびく。
都内に数少ない幼稚園。そのうちの1つで、静雄は働いていた。

こども達はみんな素直で可愛くて、一緒に遊んでいると心が和む。疎ましい暴力も、こども達の前では顔を出さない。
静雄は働きはじめてから、自分がこども好きであることに気付いたのだ。
そんな静雄にとって保父さんは、天職なのかもしれない。

――…けれどどんな場所にも問題児というのは居るもので。
今日も静雄は、“問題児”に頭を悩ませる。


「シーズちゃんっ」

こどもらしい、無邪気な声でそう呼ばれ、静雄は顔をしかめた。

「だから、臨也…シズちゃんって呼ぶな!」

「なんでー?可愛いじゃん、シズちゃんって」

「そういう問題じゃなくて、俺にはちゃんと平和島静雄って名前があんだよ!そんなふざけた呼び方するんじゃねぇ」

他のこども達が静雄を「静雄先生」と呼ぶのに対し、臨也だけはなぜか「シズちゃん」と呼んでいる。
幼稚園のうちから先生をあだ名で呼ぶなんて先が思いやられる、と、静雄は毎回訂正するけれど、一向にそれが改善される気配はなく。
今日も臨也に反省の色は全く見えず、口を三日月のように歪め、綺麗に笑った。

「いやだよ、シーズちゃんっ」

「あっ、待てこら臨也っ!」

臨也は止める静雄の手をすり抜け、教室を飛び出した。静雄は舌打ちを1つして、その後ろを追いかけた。


「まぁた始まったよ」

一部始終を見ていた園長の田中トムは、やれやれといった苦い表情で額に手をあてた。

毎日飽きることなく繰り返される鬼ごっこ。
それはもはや、幼稚園の名物のようなものになっていた。





「くそ、どこ行きやがった…!」

静雄は肩で息をしながら、額の汗を拭った。いつも追いかけっこの最後は姿を見失ってしまう。
どれだけの時間走っていたかは解らないけれど、体はもうくたくただ。静雄は、木陰に腰を下ろした。火照った体にひやりとした空気が心地好い。

超がつくほどの問題児だな、あいつは。
ぼんやりとそう考えて、大きなため息を1つ零す。

臨也の問題児っぷりはこんなものではない。
他にも、いきなり石を投げてきたり蹴りを入れてきたり、この間は私物の鞄を隠されたりもした。
そのどれもが静雄に対してのみ行われる。トムさんや他の園児には何もしたことがない。
静雄は無意識に、もう一度大きなため息を零していた。

「…俺、なにかしたかなぁ」

そう思わざるを得ないけれど、静雄にはなんの心当たりもなく、頭を抱えるしかなかった。
何もしなければ、他の園児たちと同じように可愛いのに。どうすればいいものか、今日も頭の中は臨也のことでいっぱいだった。


「シズちゃん」

はっとして顔を上げると、すぐ目の前に臨也の姿があった。相変わらず、悪戯を企むように笑っている。
さすがに静雄も体力を使い果たしており、追いかけるどころか立ち上がる気力すらなかった。

「どうしたのシズちゃん。もうスタミナ切れ?」

「……うるせぇよ」

「みっともないなー」

怒る気力すらなく聞き流すと、臨也は静雄のすぐとなりに腰を下ろした。
陰がすっぽりと2人を包み、木漏れ日がきらきらと輝く。
臨也の小さい肩が静雄にもたれかかった。こども特有の体温の高さに、やっぱりこいつもみんなと同じなんだな、と実感させられる。

「ねぇシズちゃん」

「だからその呼び方…」

「俺のこと嫌い?」

さぁっと優しい風が吹いた。臨也のサラサラとした黒髪がなびく。
静雄は驚いて臨也を見たが、体操座りをした足に顔を埋めていて、表情が解らない。

…けれど、髪のすき間から覗く耳が、りんごのように真っ赤になっていた。

「……臨也?なんでそんなこと聞くんだ」

「だって…俺、いつもシズちゃんに悪いことしてばっかりじゃん」

搾り出されたようなその声は、驚くほど弱々しくて、いつもの臨也とは程遠い。
自身の足を抱えている手が少しだけ震えていた。
静雄は思わず、臨也の頭をぽんぽんと撫でていた。臨也の肩がぴくりと跳ねる。

「…嫌いじゃねぇよ」

「……ほんとに?」

「ああ、本当に」

不安に揺れる赤い瞳が、膝を抱える腕のすき間からちらりと覗いた。優しく微笑んでやると、それは満足そうに目を細めた。

毎日毎日、鬼ごっこにはうんざりするし嫌がらせにはいらいらするけれど、やっぱりこどもが好きなのだ。嫌いになることなんてできない。
それに、こんな一面を見せられたら嫌いだなんて言えないだろう。

だからこそ、静雄は気になっていた。


「じゃあ、臨也。俺も聞いていいか?」

「なに?」

「なんでいつも俺に嫌がらせするんだ?」

「そ…れは…」

あんな不安そうな顔をして嫌われていないか心配するくらいなら、最初からなにもしなければいい。そう思うのは、至極普通な考えだろう。
臨也は静雄と目を合わせようとせず、地面に光る木漏れ日を目で追いかけていた。相変わらず、耳が赤い。

「……やっぱりお前、俺が嫌いなんじゃないか?」

「ちっ、違う!!」

臨也はそう叫ぶと、勢いよく立ち上がった。静雄は驚いて目を丸くさせる。
けれどその臨也の顔を見て、さらに目を見開くことになる。

――…顔じゅうを真っ赤にさせた臨也が、泣き出しそうな顔で静雄を見つめていた。

「…違う、のか?」

優しくそう問うと、臨也ゆっくりと頷いた。何か言いたいのに我慢しているような表情で、じっと静雄を見る。
いつもは嫌みにしか見えない赤の瞳が今は、とても綺麗に見えた。

「……シズちゃんのこと、だいすきだよ!」

静雄の体に、どさりと小さな重みがかかった。腕の中に、柔らかな温もり。
臨也は静雄の首に腕をまわし、しがみつくようにぎゅうっと抱き着いた。
静雄は少し動揺しながらも、背中に手を回し優しく抱きしめた。

「…つまりその、臨也は、俺のこと嫌いじゃないんだな?」

静雄の腕の中で、黒髪が縦に動く。それを見て、静雄は照れ臭そうに笑った。

「そうか、解った。なら、お前の嫌がらせも愛情表現の1つだと思っておくわ」

そう言って、臨也の耳を思い切りつねってやった。
涙目になって睨みつけてくる臨也に、これも愛情表現だから、と言ってニヤリと笑った。

何故好きなのに相手の嫌がるようなことをするのか解らなかったけれど、まぁいいか、と深く考えることをやめた。



「だけどな、臨也。シズちゃんはやめろ」

「なんで?可愛いじゃんシズちゃんって」

「いやだから、先生をあだ名で呼んだらいけねぇんだよ。だからちゃんと静雄先生って呼べ」

「やだよ。シズちゃんって、俺だけの特別な呼び名みたいでいいじゃん」

臨也の赤い瞳がすっと細められ、綺麗な笑顔を作る。こども離れした大人びた表情に、静雄は思わずどきりとしてしまった。

「シズちゃん、顔赤いよ」

「っ…!黙れ臨也!」

臨也は楽しそうに笑いながら、甘えるようにもう1度抱き着いた。
なぜか今度は抱き返すことが出来ずに、大きくため息をつき、しかめっつらで頭をかいた。









(俺はなんでこんなガキ相手に赤くなってんだ…!)


2人きりの木陰の中、静雄の中で何かが動き始めていた。
静雄がそれに気付くのは、まだまだ先のお話。







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シズパラ!さんに参加させて頂きました!
シズちゃんの保父さんパロでしたv
あああなんか難しいいい!!笑
一応臨静のつもりですが、園児の臨也くんはどうしても攻めにはなりませんね;
でも臨也くん絶対好きな子いじめちゃうタイプだ!
っていうかそうだと萌える←

素敵な企画に参加させてくださって、ありがとうございましたv
期限ギリギリですみませんでした…;

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