Valentine 1





2月に入り、なんだか町は色付き始めた。
やけにピンクや赤の配色が増えたような気がする。しかも、やたらハートが散りばめられている。
ついでに、となりを歩く旧友の脳内にもハートがばらまかれているようだった。

「ああ静雄!明日が楽しみで楽しみで楽しみで仕方がないよ!どこぞの製菓会社の目論みだろうがなんだろうが構わない!」

呆れて相槌も打たない俺に構わず、新羅はなおも言葉を紡ぎ続ける。

「バレンタイン、ばんざい!」



2月14日、バレンタイン。
想い人がいる男女はその日が近付くにつれそわそわし始める。俺の横にいる男はそわそわどころではないけれど。

どうやら、セルティが何日も前からチョコ作りの練習をしているらしい。
本人は新羅にばれないように隠れてやっているつもりだが、至る所に隠しきれない甘い香りがしみついているらしく、筒抜けになっている。新羅はそれを、黙ってあげているらしい。
それならそれで俺にも黙っててくれないだろうか。引っ切り無しに動く口がそろそろ鬱陶しくなってきた。

「そういえばさ、静雄」

「ああ?」

新羅は、少しだけ表情を引き締めて、惚気た雰囲気を取り払った。

「もしかして…逆チョコかい?」

「はぁ!?」

俺は思わず、叫びに似た声をあげてしまった。驚いた通行人が数人こちらを振り返る。
そんなのを気にする余裕もなく、俺は焦って平静を装おうとする。

「なっ、なんでだよ」

「だって、セルティと同じ匂いがぷんぷんするから」

制服とか、鞄からも。新羅はそう言って、ニヤリと口を歪ませる。

「静雄もすみにおけないなぁ!ねぇねぇ、お相手は誰なんだい?」

「んなこと…!手前には関係ねぇだろ!」

だんだん顔に熱が集中していくのを自分でも感じていた。見られたくなくて、思わず新羅の肩を突き飛ばす。
軽く、のつもりだったのだけれど、新羅は3メートルほど離れた壁まで吹っ飛んでしまった。

だが今はそんなことを気にしている余裕はなく、しりもちをつく新羅を横目に、俺はスタスタと家路を急いだ。


……こんなこと、知られるわけにはいかない。

あの天敵のクソノミ蟲のために、手作りチョコの練習をしているなんて。


自分でも可笑しいと思う。
毎日殺す殺すを連呼して、本気で殺し合いをする仲だというのに。

けれど、気がつけば臨也は、いつも俺の頭の中にいて。
これが恋なのかどうか解らないけれど、あいつは、特別で。
高校最後のバレンタイン、自分の気持ちを確かめるチャンスは、きっとこの日しかないと思うから。

俺は、まだ少しだけ熱い頬を冷たい両手で覆って、深呼吸した。


決戦は、明日。
甘い匂いの染み付いた鞄を握りしめ、急いで家へ向かった。









「新羅、なにやってんの?」

静雄が去った後、ぶつかった衝撃で立ち上がれない新羅の前に、学ラン姿の男が現れた。

「いたたた…ちょっと、静雄に吹っ飛ばされてさ」

「シズちゃんに?新羅に暴力振るうなんて珍しい。いったい何をしたんだい」

「いや、シズちゃんから甘い匂いがするからさ…逆チョコ?って聞いたらこの様だよ」

眉を垂れ下げて苦笑する新羅に、臨也は目を丸くさせる。

「…シズちゃんが、手作りチョコ?」

「そう。びっくりだよね!あの反応じゃきっと図星だよ」

まさか静雄に好きな子がいたなんて、と新羅はうっとりとした表情をする。
対して臨也は、口許だけ歪ませて笑ってみせた。目は笑っていない。

「…シズちゃん、好きな子いたんだ…」

独り言のようにぽつりと呟くと、そのまま臨也は新羅に背を向けてスタスタと行ってしまった。

「ちょっと臨也!…どうしたんだろう」

いつもとは少し違う友人の姿に違和感を覚えつつも、すぐに頭の中は愛する彼女のことでいっぱいになった。




――…それぞれに想いを秘めたまま、バレンタインは訪れる。






next.Liz


**
バレンタイン企画、
管理人2人によるリレー小説!
いきあたりばったりですが、
なんとかなると思います 笑

とりあえずこんな感じで..
臨也登場少なくてゴメンなさい;
さぁリズさん頼みますよーw


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