どこに行ってもT(正サキ)
季節は冷たい風が流れる2月のある日。
サキという少女はもう一年もたつのか、と思いながら風呂上がりの蒸気がかかった部屋でふと思う。
そんな折、突然と部屋にケータイの音が鳴り響く。
少女は急ぎながらケータイをつかんでディスプレイに表示されている人物の名を思いながら電話に出る。
「もしもし?正臣?」
少女は嬉しそうに、かつ少しだけさみしそうな顔をしながら出る。
「もしもし〜サキか?元気してたか?」
電話の相手は紀田正臣。何か月ぶりだろう。明るそうな声で何よりだとサキは思う。
近くで電車の音が聞こえる。
きっと仕事が終わったから下宿に戻るのだろう。
サキは胸が苦しくなる。
二人の間に何があったのか。
それは1年前にさかのぼる―
折原臨也はふと思いついたようにこう言う。
「正臣君にさぁ、頼みたいことがあるんだよねぇ。」
折原臨也は不気味な笑みを浮かべながらそういう。
正臣はそれはすぐに頼まれたくないものだと察知する。
「なんですか・・?」
おそるおそるそう答えると臨也はこれといってさっきと変らない表情で言う。
「いやさぁ、俺、こう見えても多忙でしょ?で、今回君に頼みたいのはちょっと遠出でねぇ。」
そういって資料を渡され、場所を見てみると東京を離れ、場所は北海道。
「これはどういうつもりっすか・・どのくらいの期間が必要なんすか。」
正臣は臨也をにらみつけるような表情でそういうと臨也は笑って答える。
「どうもこうもそういうつもりだよ。俺は多忙で行けないし、波江さんは弟がいるし。で、君でまあいいかなって。」
すごくめんどくさい。と正臣は思った。
しかしそのことより重大なことを聞かされる。
「期間は・・・1年間だよ。」
「ちょっ・・、待ってください!急過ぎるじゃないですか!それにサキはどうするんですか?あんな危ない世界に連れ込むわけにはいかないじゃないっすか!!」
正臣は怒りで震えていた。
なんでこんなやつのもとについたのだろうと後悔すら感じた。
そんな様子を臨也は楽しそうに見つめ、こう言う。
「サキちゃん?ハハッ、置いていくしかないねー。ついて行ったら間違いなく命の保証はできないね。」
そんなことを聞きながら正臣はただ、いう事を聞くしかなかった。
自分が決めた道だから―
サキにそのことを伝えると、置いていかないで、とだけいって泣きじゃくった。
いとしかった。
置いていきたくなかった。
後悔はしないはずなのに心がもやもやしている。
出発の日、サキは気をつけてね、とだけ言って、下を向く。
いつもの元気なサキはどこにもない。
俺もからげんきすらわいてこない。
電車に乗り込み窓の外を見ると、大好きで、大好きなサキがいた。
たった1年離れるだけなのになぜこうも悲しいのだろう。
発射の合図が流れると、下を向いていた先が急にこっちをみてなにかを叫んだ。
「正臣!・・・・だからねっ!」
肝心な部分が聞こえない。
サキは見えなくなるまで泣きながら手を振って見送ってくれた。
遠く、遠く離れていく。
正臣も泣きそうな表情でサキ、とだけつぶやいた。
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