本日快晴、一時休戦 |
空は澄み切っていて果てしなく高い。雲一つない快晴とはまさにこのことだろうと思う。出来ればこのまま昼寝でもしてしまいたいくらいだが、天敵の横で気を抜くこともできない。 静雄は肩で息をしながら、横目で隣に転がっている天敵、折原臨也を睨んだ。学ランを着た臨也も静雄と同じように肩を弾ませ、苦しげに呼吸をしている。額には、うっすらと汗が滲んでいた。 授業の始まりを告げるチャイムが鳴り響く。静雄はそれを屋上で聞いた。また授業をサボってしまったことに舌打ちをする。 「今日はもう休戦にしよう。疲れて立ち上がる気も起きない」 臨也は空を見つめたまま、力の無い声でそう言った。静雄もさすがに疲れ果て、殺し合いをする気にはなれなかった。 毎日毎日、2人は飽きることなく追いかけっこを繰り返した。静雄が臨也を見失うことですぐに終わることもあれば、まだ学校が終わっていないにも係わらず校門を飛び出し、街へ行ってしまうこともあった。大抵は、最後に臨也が逃げ切る。 今日の殺し合いという名の追いかけっこは、珍しく引き分けたようで、お互い体力を使い果たし、屋上になだれ込んだ。 2人の頭上には、広々とした青空が広がっている。殺し合いとは無縁な平和な風景。穏やかな時間がそこには流れていた。静雄は思わず、隣に居るのが折原臨也だということを忘れてしまいそうだった。 「ねぇ、シズちゃん」 ふいに臨也が呟くように言った。静雄は目線だけそちらに向ける。 赤い瞳が自分を捕らえて、鋭い視線が突き刺さっていた。穏やかなこの時間には、酷く不釣り合いだ。 「…なんだよ」 「好きだよ」 「………は?」 臨也は一切表情を変えず、真っ直ぐ見つめたままそう言った。 静雄はいきなりの言葉にぽかんとする。 「何が好きなんだ?」 「だからシズちゃんが」 「…何言ってんだ手前…」 はあ、と静雄は眉間に皺を寄せてため息をつく。 「世界中のどこに、好きなやつを殺そうとする馬鹿がいるんだよ」 「俺の愛は歪んでるからね」 そう言って臨也は、口を歪ませて笑う。 静雄には、臨也の言葉が全て冗談に聞こえ、意味のない嘘に苛立ちが募る。 「嘘ならもっとマシな嘘つけ」 「嘘じゃないよ。本当に」 「信じられるか」 静雄はもう一度ため息をつき、寝返りを打って臨也に背を向けた。これ以上話したくはないという意思表示のつもりでもあり、少しだけ赤くなった頬を隠すためでもある。 臨也の嘘なんかで、なぜか動揺している自分がいて、静雄も驚いた。こんな顔、臨也には見せられないだろう。 幸い、空気を読んだのか臨也はそれ以上話し掛けてこなかった。 「シズちゃん」 呼ばれて、静雄ははっとした。気付けばあのまま寝てしまっていたらしい。 慌てて起き上がろうとすると、ぐい、と腕を引かれ、体勢を崩してまた倒れ込んだ。そして、臨也がその上に跨がった。 「おはよ、シズちゃん」 「―っ…!手前、何して…」 「気が緩んでるんじゃないの?天敵の真横で寝ちゃうなんてさぁ。しかも、さっき告白されたばかりなんだから。そんな無防備にしてたら、何されるかわかんないよ?」 臨也は、嫌みったらしくニヤリと笑う。顔が近い。初めて至近距離で見る眉目秀麗な顔に、息が詰まる。頬が赤くなってゆくのを感じる。 「あんなの、告白なんかじゃ、ねぇだろ…」 「さぁ?どうかな」 臨也はそう言って、さらに顔を近付けた。そこにはもういつもの表情はなく、真っ直ぐに、赤い眼差しが静雄だけに注がれていた。 熱い息がかかる。鼻が触れるほどの距離。静雄はもう耳まで赤くなっていた。 「やめ、ろっ…!!」 あとほんの数センチのところで、臨也を思い切り突き飛ばした。いつもの化け物じみた力ではなく、力の入らない弱々しいものだったけれど。 「冗談もいい加減にしろ!!」 静雄は臨也を睨みながらそう吐き捨て、早足に屋上を出た。バタン、と乱暴に扉を閉めて。 屋上に1人残された臨也は、もう一度そこに寝転がった。 「…残念ながら、こっちは大真面目なんだけどなぁ」 臨也は空を見上げた。果てしない青が、臨也を見下ろしている。 真っ赤になった静雄の顔を思い出して、もう一度好きだよと呟いた。 ** まだ片想いな臨也です。シズちゃんがじわじわ自覚していきます^^ |