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秘書は見た












臨也は盛大にため息をついた。悩ましげにガシガシと頭をかく。臨也がこんなふうに苛立ちを隠さないのは、助手である波江の前だけだろう。
臨也は、波江に揺るぎ無い信頼を寄せているわけではないが、彼女の、人とは一線を置いた距離感や無関心さが心地好かった。
波江は手を止めてちらりと臨也を見た後、すぐに資料の整理を再開した。

「なんでシズちゃんはこうも思い通りにならないかなぁ、もう。だから大嫌いなんだよ」

臨也は窓の外の雑多で溢れた町を睨みながらぶつぶつ文句を垂れる。

「あなたの予定通りに平和島静雄が動いていたとしたら、今頃どうなっているはずだったの?」

波江は、とくに興味のある話ではなかったが、世間話をする感覚でそれを口にした。

「そうだなぁ、今頃、俺に文句を言いにここへ乗り込んで来るはずなんだけど。最近シズちゃんのやつ、妙に人間じみてきちゃっててつまんないんだよ。力も感情も自分でコントロール出来るようになってきたみたいでさ。前までは面白いくらい簡単に思い通りに動いてくれたのに」

臨也は表情をころころと変えながら、波江の質問以上のことをペラペラと話す。波江は、表情を変えることなくそれを見つめる。

「そう、それは残念ね」

冷めたように波江はそう言った。心の声は胸の奥にしまい込んで。

自分で気が付いていないのかしら。平和島静雄の話をするときだけ、人間らしい表情をしていることに。
それにさっきの臨也の話は、まるで会えなくて寂しいと言っているようにも聞こえる。
いつも死ねとか大嫌いとか言うくせに、よく解らないものね、と波江は心の中で呟いた。

「おっ……はは、来た来た」

窓に視線を向けていた臨也の顔が、嬉しそうに歪む。

「やっぱりシズちゃんは単細胞だなぁ」

臨也はソファーにかけてあったファーコートを羽織ると、軽い足取りで玄関へ向かった。

「じゃあちょっと、シズちゃんと遊んでくるよ」

そう言い残し、パタンと扉が閉じた。
残された波江は、さっき臨也が見ていた窓に近寄り、背の高い金髪を探す。

「まだあんなところにいるじゃないの…」

数十秒探してやっと見つけたその姿はまだ米粒のように小さく、探し出すのは酷く困難だ。というか、臨也に聞かなければ、あの金髪が平和島静雄なのかどうかも解らないが。
それを臨也は、もっと早い段階ではっきりと彼を確認したのだ。

「人間観察も意外に楽しいものね」

これから始まるであろう2人の追いかけっこを想像しながら、波江は仕事に戻った。






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波江さんは気付いてても何も言いません。臨也くんを見守りますw


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